医療用語集
「役員報酬」とは

役員報酬 やくいんほうしゅう

【役員報酬とは・定期同額給与と事前確定届出給与】

役員報酬とは、医療法人の理事長・理事・監事といった役員に対して支払われる報酬のことです。

従業員に支払う給与とは異なり、法人税法上、損金算入できる役員報酬は定期同額給与と事前確定届出給与の2種類に限定されています。

定期同額給与は、1か月以下の一定期間ごとに同額を支給する報酬で、税務署への届出額を超えて支給した分は損金算入が認められません。

事前確定届出給与は、賞与のような性質を持ち、支払日・支払額をあらかじめ税務署に届け出る報酬です。

実務上のポイントは、役員報酬は自由に金額や支給方法を決められるものではなく、税務上のルールに沿って設計する必要がある点です。

従業員給与のように月々の実績に応じて柔軟に増減させることは、原則として認められていません。

【役員報酬が医師の手取り・キャリア選択に与える影響】

勤務医として給与を受け取る立場では、報酬の支給方法を意識する場面はほとんどありませんが、理事長・分院長として役員に就任すると、自身の報酬をどの方式で受け取るかという判断が発生します。

実務上は、定期同額給与を基本としつつ、事前確定届出給与を組み合わせることで、月々の生活資金と業績に応じた変動分を分けて設計できます。

理事長ポストへの転職を検討する医師にとって、提示された年収が定期同額給与のみなのか、事前確定届出給与を含む金額なのかによって、実際の手取りの受け取り方が変わる点を理解しておくことが重要です。

求人票の年収表示だけでは、この内訳までは分からないことが多い点にも注意が必要です。

【理解不足の医師が陥るリスク】

よくある誤解が、「役員報酬も従業員の給与と同じように、業績に応じて自由に金額を変更できる」という思い込みです。

実際には、定期同額給与は事業年度の途中で自由に増減できず、届出額を超える支給分は損金不算入となり、法人の税負担が増加します。

実務上見落とされがちなのが、事前確定届出給与は、届け出た支給日・支給額と実際の支給内容にわずかでも相違があると、その事業年度の該当給与全体が損金不算入になる点です。

目安として、理事長就任時には、定期同額給与と事前確定届出給与のどちらで報酬を設計するかを、税理士とともに事前に整理しておくことが実務上の分岐点になります。

【役員報酬設定における事例】

実際にあった事例として、理事長就任にあたり、業績連動で報酬を増やせると考えて事前確定届出給与を選択した医師が、業績が想定を下回った年に、届け出た金額通りに支給せざるを得ず、資金繰りが厳しくなったケースがあります。

何が問題だったかというと、事前確定届出給与は一度届け出ると期中の減額が原則認められないという性質を理解せずに、業績変動リスクを十分検討していなかった点です。

防ぐためには、業績変動が読みにくい就任初年度は定期同額給与を中心に設計し、経営が安定してから事前確定届出給与の比率を検討することが有効です。

この医師は翌年度に報酬体系を見直すことで対応しましたが、就任前の設計段階で慎重に検討していれば、資金繰りの厳しさを避けられた可能性があります。

【役員報酬を踏まえた対策】

まず、理事長・分院長への就任を検討する際は、提示される報酬が定期同額給与・事前確定届出給与のどちらの形式で構成されているかを確認することが出発点になります。

就任初年度は業績の見通しが立てにくいため、定期同額給与を中心とした設計にしておくことが実務上安全です。

事前確定届出給与を取り入れる場合は、届出内容と実際の支給に相違が生じないよう、資金繰りの見通しを十分に立てた上で金額を設定する必要があります。

フルスイングでは、理事長・分院長ポストへの転職における報酬設計についても情報提供を行っています。

就任前にこうした仕組みを理解しておくことが、着任後のミスマッチを防ぐことにつながります。

【役員報酬の決め方・社員総会決議】

医療法人の役員報酬は、理事長の一存で決められるものではなく、社員総会の決議を経て決定する必要があります。

株式会社であれば株主総会での決議に相当しますが、医療法人には株主総会がなく、社員総会がこれに代わる意思決定機関となります。

実務上のポイントは、決議内容を議事録として作成・保存しておく必要がある点で、税務調査の際にも、社員総会での決議に基づいて報酬が決定されたことを示す証跡として重要になります。

定款で役員報酬の枠組みを定めているケースは少なく、実際には社員総会での決議によって具体的な金額が決まるのが一般的です。

理事長個人がいくら受け取るかという金額そのものも、この決議を経て初めて法人として正式に確定します。

【理事長就任時の意思決定への影響】

理事長ポストへの転職・承継を検討する医師にとって、自身の役員報酬は雇用契約書への署名だけで確定するものではなく、社員総会での決議という法人としての意思決定プロセスを経る必要がある点を理解しておくことが重要です。

実務上は、承継や転職のタイミングで前任者から役員報酬額を引き継ぐ場合でも、正式には改めて社員総会での決議が必要になります。

この手続きを踏まずに報酬の支給を開始してしまうと、後になって手続き上の不備を指摘されるリスクがあるため、着任前のスケジュールに組み込んでおく必要があります。

特に承継のケースでは、旧経営陣との引き継ぎに気を取られ、この手続きが後回しになりやすい傾向があります。

【手続き漏れによるリスクと見落としがちなポイント】

よくある誤解が、「前任者の理事長と同じ報酬額を引き継ぐだけなら、改めて決議は不要だ」という思い込みです。

実際には、役員の交代に伴い報酬額を新たに決定する場合は、その都度、社員総会での決議と議事録の作成が必要になります。

実務上見落とされがちなのが、決議を行わないまま報酬を支給してしまうと、税務調査の際に、適正な手続きを経て決定された役員報酬であることを証明できず、損金算入が否認されるリスクがある点です。

目安として、理事長就任が決まった段階で、社員総会の開催時期と議事録作成の担当者をあらかじめ確認しておくことが実務上の分岐点になります。

着任日と決議日にずれが生じないよう、双方のスケジュールを早期にすり合わせておくことが望ましいといえます。

【役員報酬決定における事例】

実際にあった事例として、前任理事長からの引き継ぎで、口頭での合意のみに基づいて報酬支給を開始し、正式な社員総会決議と議事録の作成を後回しにしていた医師のケースがあります。

何が問題だったかというと、着任を急ぐあまり、法人としての正式な意思決定プロセスを経ないまま報酬の支給が始まってしまっていた点です。

防ぐためには、着任前の段階で、社員総会の開催スケジュールを法人側の事務担当者と確認し、報酬決定の決議と議事録作成を着任日までに完了させておくことが有効です。

この医師は着任後まもなく正式な決議を行い事なきを得ましたが、事前に確認していればより早い段階で手続きを完了できたと考えられます。

【役員報酬の決め方を踏まえた対策】

まず、理事長・分院長への就任にあたっては、報酬額の決定に社員総会の決議が必要であることを理解し、着任前のスケジュールに組み込んでおくことが出発点になります。

前任者から報酬額を引き継ぐ場合であっても、改めて決議と議事録の作成が必要になる点を法人側と早めに共有しておく必要があります。

決議内容の議事録は、税務調査時の証跡としても重要であるため、保存体制についても確認しておくことが実務上有効です。

フルスイングでは、理事長就任にあたっての手続き面の留意点についても相談に対応しています。

法人としての正式な手続きを踏まえておくことが、着任後のトラブルを防ぐことにつながります。

【役員報酬の変更可能期間(事業年度開始3か月以内)とは】

役員報酬は、一度決定すると事業年度の途中で自由に変更できるわけではありません。

実務上のルールとして、定期同額給与の金額を変更できるのは、原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日までに限られています。

例えば4月1日から翌年3月31日を事業年度とする医療法人であれば、4月1日から6月30日までの3か月間が変更可能な期間になります。

この期間を過ぎてから報酬額を増額した場合、増額前の金額が定期同額給与の基準とみなされ、増額分は損金不算入となる点が実務上の重要なポイントです。

決算期を意識せずに報酬改定を行うと、意図せずこのルールに抵触してしまうことがあります。

【年収見直しへの影響】

理事長として経営に携わる医師にとって、経営状況の改善や法人の成長に応じて自身の報酬を見直したいと考える場面は少なくありません。

実務上は、この変更可能期間を逃すと、次の見直しは翌事業年度まで待つ必要があるため、報酬改定のタイミングは年に一度、限られた期間にしかない点を理解しておく必要があります。

理事長就任時や、経営状況が大きく変化した際には、この3か月というウィンドウを意識してタイミングを合わせることが、報酬見直しの機会を逃さないための前提条件になります。

年に一度しかない機会だからこそ、日頃から経営状況を把握しておくことが重要です。

【期限を逃すリスクと見落としがちなポイント】

よくある誤解が、「役員報酬は、経営状況が良くなったタイミングでいつでも増額できる」という思い込みです。

実際には、変更可能期間を過ぎてからの増額は、増額分が損金不算入となり法人税の負担が増えるだけでなく、増額した部分には役員個人の所得税もかかるため、法人税と所得税が二重に課税される形になります。

実務上見落とされがちなのが、経営状況が著しく悪化した場合の減額は、変更可能期間外であっても認められるケースがある一方、増額は基本的にこの期間内でなければ認められない、という非対称なルールになっている点です。

目安として、事業年度開始の直後に、その年の役員報酬の見直しを行うかどうかを検討する習慣をつけておくことが実務上の分岐点になります。

【役員報酬変更における事例】

実際にあった事例として、経営が軌道に乗り始めた理事長が、事業年度の後半になってから役員報酬の増額を決議しようとしたところ、すでに変更可能期間を過ぎていたため、増額分が損金不算入になってしまったケースがあります。

何が問題だったかというと、経営状況の改善を確認してから報酬見直しを検討するという順序で動いており、変更可能期間という時間的な制約を事前に把握していなかった点です。

防ぐためには、事業年度が始まったタイミングで、その年の見通しをもとに役員報酬の見直しを検討する流れを、毎年のルーティンとして組み込んでおくことが有効です。

この理事長は翌事業年度に改めて増額の決議を行いましたが、1年待つことになった機会損失は結果的に小さくありませんでした。

【変更可能期間を踏まえた対策】

まず、役員報酬の増額は事業年度開始から3か月以内に限られることを理解し、毎年この時期に報酬見直しの検討を行う習慣を持つことが出発点になります。

経営状況の改善が見込まれる場合は、確定してから動くのではなく、見通しの段階で早めに検討を始めることが実務上有効です。

変更可能期間を逃した場合は、翌事業年度まで待つ必要があるため、資金計画にもその前提を織り込んでおく必要があります。

フルスイングでは、理事長としての経営判断に関わるこうした実務知識についても情報提供を行っています。

就任前にこうしたルールを把握しておくことが、着任後の判断ミスを防ぐことにつながります。

【過大役員報酬のリスク(損金不算入)とは】

過大役員報酬とは、役員の職務内容や法人の収益状況に照らして不相当に高額と判断される役員報酬のことです。

損金不算入とは、こうした過大と判断された部分について、法人税の計算上、経費として認められなくなることを指します。

実務上のポイントは、定期同額給与や事前確定届出給与という支給形式の要件を満たしていても、金額そのものが不相当に高額であれば、その超過部分は別途、過大役員報酬として損金不算入とされる可能性がある点です。

厚生労働省の資料では、他法人の役員報酬や給与額も参考にしつつ、当該医療法人の収益状況などを総合的に考慮して判断するという基準が示されています。

明確な金額の上限が数値で定められているわけではなく、総合判断であるという点も実務上押さえておくべきポイントです。

【法人税負担への影響】

理事長に就任した際、自身の報酬額をどの水準に設定するかは、法人税の負担額に直接影響します。

実務上は、報酬額を高く設定するほど法人の課税所得は圧縮されますが、それが不相当に高額と判断されると、超過部分について法人税が課され、さらに理事長個人の所得税も報酬全額に対してかかるため、二重の負担が生じる可能性があります。

理事長就任時や医療法人化のタイミングで報酬額を設定する際は、法人の収益規模とのバランスを踏まえた水準に設定することが、後年の税務上のリスクを避けるうえで重要になります。

設定時点での妥当性が、その後数年間の基準として引き継がれやすい点も踏まえておく必要があります。

【高額設定によるリスクと見落としがちなポイント】

よくある誤解が、「役員報酬は法人の利益の範囲内であれば、いくらに設定しても問題ない」という思い込みです。

実際には、利益の範囲内であっても、同規模の医療法人の報酬水準や、理事長の職務内容に照らして不相当に高額と判断されれば、過大役員報酬として否認されるリスクがあります。

実務上見落とされがちなのが、法人の収益が急に伸びた年に、それに合わせて報酬を大幅に増額すると、増額幅の大きさそのものが税務調査で着目されやすくなる点です。

目安として、報酬額を設定・変更する際は、同規模の医療法人の報酬水準を参考情報として確認し、極端な水準にならないよう注意しておくことが実務上の分岐点になります。

【過大役員報酬による否認事例】

実際にあった事例として、法人の収益が大きく伸びた年に、理事長が自身の役員報酬を大幅に増額したところ、税務調査で職務内容に対して不相当に高額と指摘され、増額分が過大役員報酬として損金不算入とされたケースがあります。

何が問題だったかというと、収益の伸びに比例させて報酬を決めており、同規模法人の報酬水準や職務内容とのバランスを事前に確認していなかった点です。

防ぐためには、報酬額を大きく見直す際は、税理士とともに同規模法人の水準や過去の裁決事例などを参考にしながら、妥当性を検証したうえで金額を決定することが有効です。

この理事長は修正申告により追徴課税に対応しましたが、事前の妥当性検証があれば、この負担自体を避けられた可能性があります。

【過大役員報酬を踏まえた対策】

まず、役員報酬は法人の利益の範囲内であっても、不相当に高額であれば過大役員報酬として否認されうることを理解することが出発点になります。

報酬額を設定・変更する際は、同規模の医療法人の水準や、自身の職務内容とのバランスを踏まえて検討する必要があります。

収益が大きく伸びた年ほど、報酬の増額幅について税理士に事前相談し、妥当性を確認しておくことが実務上有効です。

フルスイングでは、理事長就任にあたっての報酬設計の考え方についても情報提供を行っています。

就任前にこうしたリスクを理解しておくことが、着任後の税務トラブルを防ぐことにつながります。

【役員報酬と給与所得控除の関係】

役員報酬は、税法上の分類では「給与所得」に該当し、勤務医時代に受け取っていた給与と同様に、給与所得控除の対象になります。

実務上のポイントは、理事長として受け取る役員報酬であっても、事業所得ではなく給与所得として扱われるため、年収に応じて段階的に決まる給与所得控除がそのまま適用される点です。

役員報酬の額が850万円を超えると、給与所得控除は上限の195万円で頭打ちになるという仕組みも、勤務医時代の給与と変わりません。

理事長就任によって報酬の決め方や税務上の手続きは変わっても、所得区分としては給与所得のままである点を理解しておくことが、手取り試算の前提になります。

この点を誤解していると、開業医(事業所得)との比較においても混乱が生じやすくなります。

【手取り試算への影響】

理事長ポストへの転職を検討する際、提示される役員報酬の額面だけを見て手取りを見積もると、実際の手取りとの間にずれが生じることがあります。

実務上は、役員報酬も給与所得控除・社会保険料・所得税・住民税を差し引いた金額が手取りになるため、勤務医時代の年収と役員報酬の額面を単純比較するのではなく、給与所得控除後の課税所得ベースで比較することが重要です。

特に役員報酬が850万円を超える水準になると、給与所得控除が頭打ちになるため、額面の増加分がそのまま手取りの増加に結びつきにくくなる点も、勤務医時代からの継続的な論点として押さえておく必要があります。

理事長ポストは高年収の求人が多いため、この頭打ちラインを意識する場面が増えます。

【控除誤認によるリスクと見落としがちなポイント】

よくある誤解が、「役員報酬は事業所得のような扱いになるため、給与所得控除は受けられない」という思い込みです。

実際には、役員報酬も給与所得として扱われるため、給与所得控除は通常通り適用されます。

実務上見落とされがちなのが、役員報酬の中に定期同額給与と事前確定届出給与が混在している場合でも、これらを合算した年間の役員報酬総額に対して給与所得控除が計算される点です。

目安として、理事長就任のオファーを比較する際は、額面の役員報酬だけでなく、給与所得控除後の課税所得ベースで手取りを試算し、勤務医時代の年収と比較しておくことが実務上の分岐点になります。

【役員報酬の手取り試算事例】

実際にあった事例として、勤務医時代の年収1,000万円から、理事長就任で役員報酬1,400万円のオファーを受けた医師が、額面の増加分がそのまま手取りに反映されると想定していたところ、給与所得控除が850万円超で頭打ちになる仕組みを踏まえていなかったため、実際の手取り増加率が想定を下回ったケースがあります。

何が問題だったかというと、役員報酬も給与所得控除の対象になるという前提は理解していたものの、控除額の頭打ちラインを踏まえた具体的な試算を行っていなかった点です。

防ぐためには、理事長就任のオファーを検討する段階で、給与所得控除後の課税所得ベースでの手取り試算を行うことが有効です。

この医師は着任後に生活設計を見直すことで対応しましたが、事前試算があれば、条件交渉の段階でより納得感のある判断ができた可能性があります。

【役員報酬と給与所得控除を踏まえた対策】

まず、役員報酬も給与所得に区分され、給与所得控除がそのまま適用されることを理解することが出発点になります。

理事長ポストへのオファーを比較する際は、額面の役員報酬だけでなく、給与所得控除・社会保険料・税負担を織り込んだ手取りベースで比較することが実務上重要です。

役員報酬が850万円を超える水準になる場合は、給与所得控除の頭打ちを踏まえた試算を行っておく必要があります。

フルスイングでは、理事長・分院長ポストへの転職における年収比較のサポートを行っています。

【医療法人化タイミングでの役員報酬設定とは】

医療法人化(法人成り)とは、個人事業として運営していたクリニックを、医療法人として新たに設立し直すことを指します。

役員報酬の設定は、医療法人化にあたって決めなければならない重要な項目の一つです。

個人開業医としての事業所得とは異なり、法人化後は理事長自身への報酬も役員報酬として、定期同額給与などの形式に沿って支給する必要があります。

実務上のポイントは、法人化する年度の役員報酬額をどう設定するかによって、法人に残る利益と理事長個人の手取りのバランスが大きく変わる点です。

法人設立後、事業年度開始から3か月以内という限られた期間で最初の金額を決める必要があります。

この期間を過ぎると原則として1年間は変更できないため、法人化のタイミングにおける最も重要な意思決定の一つといえます。

【法人化検討時の影響】

個人開業医として事業を続けるか、医療法人化するかを検討する際、役員報酬の設定次第で、法人税と所得税を合わせたトータルの税負担が変わってきます。

実務上は、法人に利益を多く残せば法人税負担は増える一方、将来の設備投資や運転資金の余裕につながり、逆に役員報酬を高く設定すれば理事長個人の手取りは増えるものの、所得税・住民税の累進課税の影響を受けやすくなります。

医療法人化を検討する段階で、この役員報酬の水準をどう設計するかが、法人化のメリットを最大限に活かせるかどうかを左右する重要な意思決定になります。

個人開業医時代の税負担と単純比較するのではなく、法人・個人合算での総合的な負担で検討することが望ましいといえます。

【初期設定を誤るリスクと見落としがちなポイント】

よくある誤解が、「医療法人化した初年度の役員報酬は、とりあえず個人開業医時代の手取りと同程度に設定しておけばよい」という単純な考え方です。

実際には、法人化直後は運転資金の余裕が読みにくく、役員報酬を高く設定しすぎると、法人側の資金繰りを圧迫する可能性があります。

実務上見落とされがちなのが、法人化初年度の役員報酬は、事業年度開始から3か月以内でなければ見直せないため、設定を誤ると1年間はそのままの水準で運用せざるを得ない点です。

目安として、法人化前の段階で、複数の役員報酬水準における法人・個人双方の税負担と資金繰りをシミュレーションし、余裕を持った水準を選んでおくことが実務上の分岐点になります。

【法人化時の設定事例】

実際にあった事例として、医療法人化にあたり、個人開業医時代の手取りをそのまま維持しようと役員報酬を高めに設定した医師が、法人化初年度に設備投資と役員報酬の支払いが重なり、法人の運転資金が想定より逼迫したケースがあります。

何が問題だったかというと、法人化直後の資金繰りに余裕を持たせる視点が不足しており、個人の手取り水準を優先して報酬額を決めてしまっていた点です。

防ぐためには、法人化前の段階で、法人に残す利益と役員報酬のバランスについて複数のシナリオを試算し、資金繰りに無理のない水準を選んでおくことが有効です。

この医師は翌年度に報酬水準を見直すことで対応しましたが、法人化前のシナリオ試算があれば、初年度から無理のない設定にできた可能性があります。

【医療法人化タイミングでの役員報酬設定を踏まえた対策】

まず、医療法人化にあたっては、個人開業医時代の手取り水準をそのまま踏襲するのではなく、法人の資金繰りと役員報酬のバランスを踏まえて設計することが出発点になります。

役員報酬は事業年度開始から3か月以内でなければ見直せないため、法人化前の段階で複数のシナリオをシミュレーションしておく必要があります。

法人に利益を残すか、役員報酬として受け取るかは、法人税・所得税双方への影響を踏まえて税理士とともに検討することが実務上重要です。

フルスイングでは、医療法人化や理事長就任を見据えた医師のキャリア相談にも対応しています。

監修医師 坂口海雲

監修医師

坂口さかぐち海雲みくも

大阪市立大学医学部卒業。循環器内科医として「病気を治すこと」と「患者さんを幸せにすること」の両立を志し、2016年に福島吉野スマイル内科・循環器内科を開院。患者様が心からの笑顔になれる医療を目指し、日々精進しています。

給与情報を見る