開業医が「やばい」と感じる瞬間とは?実際のクリニック経営の苦労

開業医が「やばい」と感じる瞬間とは?実際のクリニック経営の苦労

開業医はやばい」という言葉を目にして、漠然とした不安を感じたことのある先生は少なくないのではないでしょうか。開業を検討し始めると、勤務医時代には想像していなかった負担が、資金面・体力面・人間関係の面で具体的に見えてきます。

本記事では、開業医が実際に「やばい」と痛感する瞬間を、以下の観点から解説します。

  • ・資金繰り・経営面で「やばい」と痛感する瞬間
  • ・労働時間・体力面で「やばい」と痛感する瞬間
  • ・人間関係・孤独感で「やばい」と痛感する瞬間
  • ・「思ったより儲からない」年収面のギャップ
  • ・「やばい」を防ぎ、後悔しない開業をするためのポイント

ご自身の状況と照らし合わせながら、判断材料として本記事をお役立てください。

「開業医はやばい」と感じるのはどんな時か

「開業医はやばい」と検索する先生の多くは、まだ漠然とした不安の段階にあるのではないでしょうか。周囲から聞こえてくる声も、「儲かる」という景気のいい話から「廃業した」という深刻な話まで幅があり、どちらを信じればいいのか判断がつきにくいものです。ここでは、その不安の正体を具体的な数字と場面に分けて整理していきます。

開業医の休廃業・倒産が過去最多を更新している現実

2025年の医療機関(病院・診療所・歯科医院)の倒産は66件、休廃業・解散は823件となり、いずれも過去最多を更新しました。業態別に見ると、診療所の倒産は28件で全体を押し上げる要因となっており、病院・歯科医院と並んで過去2番目に多い件数を記録しています。

物価高や人件費の高騰による収益悪化に加え、経営者の高齢化と後継者不足も、休廃業・解散が増え続けている大きな要因です。

なお、休廃業・解散は必ずしも経営破綻を意味するわけではなく、後継者が見つからないまま院長が引退するケースも多く含まれます。「廃業=失敗」と短絡的に捉えるのではなく、まずは開業医を取り巻く経営環境そのものが厳しさを増している事実として受け止めておく必要があるでしょう。

出典:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」
https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260123-iryoukikan2025/

「やばい」と感じる瞬間は主に4つの場面に分けられる

開業医が「やばい」と痛感する瞬間は、大きく分けて資金繰り、労働時間、人間関係、年収の4つの場面に集約されます。

  • ・資金繰り:運転資金の不足や融資返済のプレッシャーに直面する場面
  • ・労働時間:休診日を確保できず、体力的な限界を感じる場面
  • ・人間関係:スタッフの離職や経営判断の孤独に直面する場面
  • ・年収:想定より手取りが増えないというギャップに気づく場面

これらは独立した問題ではなく、資金の不安が労働時間の圧迫につながり、労働時間の圧迫がスタッフとの関係悪化を招くというように、連鎖的に影響し合う点が特徴です。次の章から、それぞれの場面で何が起きているのかを具体的に見ていきます。

資金繰り・経営面で「やばい」と痛感する瞬間

開業を決めた時点では明るい将来を描いていた先生も、実際に経営が始まると「思っていたのと違う」と感じる瞬間に直面します。ここでは、資金繰りの面で「やばい」と痛感しやすい4つの瞬間を見ていきます。

想定より運転資金が早く尽きていく瞬間

開業直後は、患者数が軌道に乗るまでに一定の期間がかかるのが一般的です。その間も、家賃・人件費・リース料・水道光熱費などの固定費は、患者数の多寡にかかわらず毎月確実に発生し続けます。

事業計画の段階で「半年分は持つはず」と見込んでいた運転資金が、想定より早いペースで目減りしていくことに気づいた瞬間は、多くの開業医が「やばい」と感じる代表的な場面といえるでしょう。

とくに、開業時に自己資金を使い切ってしまい、運転資金に回せる余力が乏しいまま開業に踏み切ったケースでは、この目減りのスピードがさらに早まります。

当初の事業計画上では黒字化まで半年から1年程度を見込んでいたとしても、集患が想定通りに進まなければ、その期間はさらに延びていきます。「収入が増えるまでの期間を、手元資金でどう乗り切るか」という視点は、開業前の資金計画で見落とされがちなポイントです。

融資の返済が重くのしかかる瞬間

開業資金の多くは金融機関からの融資でまかなわれ、その返済期間は10年〜20年程度に及ぶのが一般的です。

診療が軌道に乗っている間は問題なく返済できていても、急な医療機器の故障や、近隣への競合クリニック開業による患者数の落ち込みが重なると、毎月の返済額の重さを改めて実感する瞬間が訪れます。

とくに公的融資の場合、返済が遅延すると「期限の利益」を失い、残りの借入金全額と利息を一括請求される可能性がある点には注意が必要です。延滞した場合、原則として年8.7%の遅延損害金が日割りで加算されていく仕組みになっており、放置すればするほど負担が増していきます。

出典:マネーフォワードクラウド会社設立「日本政策金融公庫の融資を踏み倒すリスクとは」
https://biz.moneyforward.com/establish/basic/77492/

返済が厳しいと感じた段階で早めに金融機関へ相談し、条件変更などの手続きを検討することが、事態の悪化を防ぐ現実的な対処法です。先延ばしにするほど選択肢は狭まっていきます。

設備投資の判断ミスに気づく瞬間

開業時の設備投資は、診療科によっては数千万円規模になることも珍しくありません。「開業するなら最新の設備を揃えたい」という思いから医療機器に資金を投じすぎ、結果的に運転資金を圧迫してしまうケースは、資金繰り悪化の典型的なパターンの一つです。

逆に、想定していた症例数に対して機器の処理能力が不足しており、患者の待ち時間が伸びて評判を落としてしまうケースもあります。

開業コンサルタントや医療機器業者に勧められるまま導入を決めてしまい、後になって「自院の診療圏には過剰な投資だった」と気づく瞬間も、開業医が「やばい」と痛感するタイミングの一つです。

設備投資は一度実行すると後戻りが難しいため、診療圏の患者ニーズと投資額のバランスを慎重に見極める必要があります。

赤字経営の診療所が約4割に上るという現実

「自分の経営だけがうまくいっていないのでは」と孤独に不安を感じる先生もいるかもしれませんが、これは決して特殊なケースではありません。

令和6年度の一般診療所(医療法人)は、赤字となった割合が約4割(37.4%)まで悪化しているというデータが示されています。

なお、一般病院の赤字割合はさらに深刻で約7割(67.6%)に上っており、病院ほどではないにせよ、診療所も物価や人件費の高騰に診療報酬の改定が追いつかず、収支が圧迫される構造にあります。

出典:厚生労働省(中央社会保険医療協議会)「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)結果報告に対する見解」
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001603459.pdf

比較項目 勤務医 開業医
収支悪化時の影響 給与体系に基づき一定水準を維持 自院の収支に直接反映される
資金繰りの責任 病院組織が負う 院長自身が単独で負う
コスト上昇への対応 直接的な影響は限定的 材料費・人件費高騰が即座に収支を圧迫

「赤字=即廃業」ではなく、多くの診療所が直面している経営環境そのものが厳しさを増しているという事実として捉えることが、冷静な経営判断の第一歩になるでしょう。

労働時間・体力面で「やばい」と痛感する瞬間

「開業すれば自分のペースで働ける」というイメージを持って開業した先生ほど、実際の労働時間の長さに驚くことがあります。ここでは、体力面で「やばい」と痛感しやすい4つの瞬間を見ていきます。

休診日を作れず働き続けている瞬間

開業医は、自分が診療しなければクリニックの収益が止まってしまうという構造上、体調が優れない日でも「休めない」という状況に直面しやすい立場にあります。非常勤医師を確保できていない開業初期は、とくにこの傾向が強く表れるのです。

都内の開業医を対象にした調査では、1週間の休日日数が「1日未満」との回答が18.3%、「1〜2日未満」が52.2%を占め、約7割の開業医が週2日の休みを確保できていないことが分かっています。

勤務医時代であれば当然のように取れていた連休が、開業後は容易に確保できなくなる現実に直面する瞬間は、多くの開業医が「やばい」と感じるポイントの一つです。

出典:東京保険医協会「開業医実態意識基礎調査①増える長時間労働」
https://www.hokeni.org/docs/2022030200012

勤務医時代よりも長時間労働になっている瞬間

診療時間そのものは勤務医時代と変わらなくても、開業医になると診療前後の業務量が大幅に増えます。

カルテの確認や処方箋の管理といった診療業務に加え、スタッフの労務管理、会計処理、集患のための広告運用など、経営に関わる業務が診療時間の前後に積み重なっていくのが実情です。

同調査では、1日の実労働時間が「9時間以上」との回答が約半数(9〜11時間未満28.8%+11時間以上18.4%)に上り、2012年の前回調査と比べて長時間労働化が進んでいることも示されています。

「開業すれば時間に余裕ができる」というイメージとは裏腹に、実際には診療以外の業務が労働時間を押し上げている構造が見えてきます。

勤務医時代と開業後で、労働時間・休日をめぐる状況がどう変わるかを整理すると、以下のようになります。

比較項目 勤務医 開業医
休日日数の決まり方 病院の勤務シフトに従う 自分で決められるが、実際は週2日未満が約7割
実労働時間 病院の規定に基づく 診療前後の経営業務が加わり、9時間以上が約半数
体調不良時の対応 同僚・上司がカバーする体制がある 代診を確保できなければ自身で対応せざるを得ない

体調を崩しても代わりがいないと気づく瞬間

勤務医であれば、体調不良の際に同僚や上司がカバーしてくれる体制がありますが、開業医の場合は自分が倒れるとクリニックの診療そのものが止まってしまいます。この「代わりがいない」という事実に直面するのは、多くの場合、実際に体調を崩してからです。

  • ・急な発熱でも、予約患者を抱えていると休診の判断がしづらい
  • ・非常勤医師の確保ができておらず、代診を頼める相手がいない
  • ・長期の休養が必要になった場合、収入が途絶えるリスクがある

心身の疲労について、同調査では「疲れが翌日以降に残ることが多い」が23.7%、「いつも疲れている」が9.4%となっており、3割超の開業医が慢性的な疲労を抱えていることも分かっています。

健康であることが経営の前提条件になっている以上、体調管理そのものが経営リスクの一部だといえるでしょう。

令和6年度の経営悪化が労働時間にも影を落としている

労働時間の長さは、単なる個人の働き方の問題にとどまりません。日本医師会総合政策研究機構が全国11,113施設の診療所院長を対象に実施した調査では、令和6年度の経営収支が医療法人・個人立ともに前年度から大幅に悪化したことが示されています。

経営が厳しくなるほど、人件費を抑えるために非常勤スタッフの雇用を絞らざるを得なくなり、結果として院長自身の労働時間がさらに延びるという悪循環が生まれやすくなります。

出典:日本医師会総合政策研究機構「令和7年診療所の緊急経営調査(日医総研ワーキングペーパーNo.494)」
https://www.jmari.med.or.jp/wp-content/uploads/2025/09/WP494.pdf

「休めない」「代わりがいない」という状況は、経営が安定してくれば徐々に改善できる場合も多く、開業当初の一時的な負担として見通しを持っておくことが、体力面での「やばい」を乗り越える一つの視点になるでしょう。

人間関係・孤独感で「やばい」と痛感する瞬間

診療の技術には自信があっても、人間関係のマネジメントに苦労して「やばい」と感じる開業医は少なくありません。クリニックは院長を含めて数人から十数人という小さな組織であるため、人間関係の綻びがそのまま経営に直結しやすいという特徴があります。

スタッフの一斉退職や人間関係の綻びに直面する瞬間

勤務医時代は、人事や労務管理を病院組織が担ってくれていましたが、開業医になるとスタッフの採用・教育・評価のすべてを自分自身で担うことになります。

院長が「雇用主・経営者」としての自覚を欠いたまま、スタッフを単なる労働力として扱ってしまうと、現場に不満が蓄積し、一斉退職などの深刻な事態に発展することもあります。

  • ・院長の指示が一方的で、スタッフの意見を聞く場がない
  • ・業務量に見合わない給与体系のまま据え置かれている
  • ・新人スタッフへの教育が後回しになり、定着しない

小規模組織ゆえに一人の離職が診療体制全体に影響を与えやすく、複数名が同時期に退職すると、診療そのものを一時的に縮小せざるを得ない状況にも陥りかねません。

採用活動と並行して日々の診療をこなす負担は、開業医が「やばい」と実感する瞬間の一つです。

経営判断を一人で抱え込む孤独を感じる瞬間

勤務医であれば、治療方針や難しい判断を上司や同僚に相談できる環境がありますが、開業医になると、経営に関わるあらゆる意思決定の最終責任を一人で負うことになります。

スタッフの給与改定、設備投資のタイミング、集患のための広告戦略など、正解のない判断を日々下し続けなければなりません。

この「相談相手がいない」という孤独感は、資金面や労働時間の負担とは異なる種類のストレスとして、開業医に重くのしかかります。

とくに、開業から日が浅く、地域の医師会や同業ネットワークとの関係が築けていない時期ほど、孤独を強く感じやすい傾向があるといわれています。

患者からのクレーム対応も自分で背負う瞬間

勤務医時代は、患者対応で難しい局面に直面しても、上司や医事課などの組織的なサポート体制がありました。開業医の場合、患者からのクレームや不満の一次対応も、最終的には院長自身が引き受けることになります。

スタッフでは対応しきれない事案が増えるほど、診療以外の対応に時間を取られ、本来注力すべき診療の質にも影響が及びかねません。

「診療の腕には自信があったのに、経営者としての対人対応でここまで疲弊するとは思わなかった」と感じる瞬間は、開業医の間で決して珍しい経験ではありません。

孤独感を軽減するための外部リソースの存在

もっとも、この孤独感は開業医であれば必ず耐え続けなければならないものではありません。税理士や社会保険労務士、経営コンサルタントといった専門家に加え、地域の医師会や勉強会、同世代の開業医同士のネットワークなど、相談先を確保する手段は複数存在します。

「一人で抱え込まない」という選択肢を早い段階から持っておくことが、人間関係・孤独感の面での「やばい」を和らげる現実的な対策になります。

次章では、こうした苦労の背景にある年収面の実態を見ていきます。

「思ったより儲からない」年収面のギャップ

「開業医は儲かる」というイメージを持って開業したものの、実際の手取りが想定を下回り、「やばい」と感じる先生も一定数存在します。ここでは、年収面で生じやすいギャップを、公的データをもとに整理します。

開業医の年収の実態(中央値・最頻値で見る現実)

開業医の年収を語る際、「平均値」だけを見ると実態を見誤る可能性があります。

財務省が示した資料では、医療法人立診療所院長の給与費を約2,700万円としていましたが、これに対し日本医師会は「給与分布の中央値は2,160万円、最頻値は1,000〜1,500万円にとどまる」と反論しています。

平均値は一部の高収入層に引き上げられている可能性があり、「自分もこの水準に届くはず」と考えるのは早計です。中央値・最頻値という、より実態に近い指標にも目を向けておく必要があります。

出典:日経メディカル「診療所院長の年収2700万円は『実態と乖離している』」
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/202511/591038.html

勤務医と比べて本当に増えるのか

開業医への転身を検討する動機の一つに「勤務医より収入が増える」という期待がありますが、この差は診療科や立地、経営努力によって大きく変動します。

すべての開業医が勤務医時代を上回る収入を得られるとは限らず、なかには開業前より収入が下がるケースも存在します。

  • ・競合クリニックが多い地域では、集患自体に苦戦しやすい
  • ・診療科によって医業収益の水準に大きな差がある
  • ・開業直後は借入返済や設備投資の負担が収入を圧迫する

「開業すれば自動的に年収が上がる」という単純な図式ではなく、経営が軌道に乗るまでの期間をどう乗り切るかが、実際の年収を左右する大きな要因になります。

診療科によって年収の差は大きい

年収のギャップは、開業医全体を一括りにするだけでは見えてきません。診療科によって収益構造そのものに大きな開きがあることも、想定外の「やばい」につながる要因です。

厚生労働省の資料によれば、医療法人が運営する一般診療所の診療科別損益率は、外科の0.5%から耳鼻咽喉科の9.9%まで幅があり(令和6年度)、同じ「開業医」という括りでも診療科によって経営の余力がまったく異なることが分かります。

出典:厚生労働省「第25回医療経済実態調査の結果に対する見解」(健康保険組合連合会・中医協総-5-1提出資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001603473.pdf

「開業医は儲かる」という一般論に引きずられ、自分の診療科の収益構造を確認しないまま開業してしまうと、想定していた年収との差に開業後気づくことになりかねません。開業前に、同じ診療科の開業医から実情をヒアリングしておくことも有効な備えになります。

収益と手取りは別物であるという誤解

開業医の年収を語るうえで見落とされがちなのが、「医業収益」と「手取り(可処分所得)」の違いです。厚生労働省の医療経済実態調査によれば、個人診療所の年間医業収益は平均9,698万円とされていますが、この金額がそのまま院長の手取りになるわけではありません。

医業収益から差し引かれる主な経費には、以下のようなものがあります。

  • ・人件費:看護師・事務スタッフの給与、社会保険料の事業主負担分
  • ・設備関連費:医療機器のリース料・保守費用、内装の減価償却
  • ・材料費:医薬品や診療材料の仕入れ費用
  • ・借入金の返済:元本返済に加え、利息分も収支を圧迫する要因になる

これらの経費を差し引いた金額が、実際に院長の手元に残る収入です。「医業収益」という総売上に近い数字だけを見て「開業医は儲かる」と判断してしまうと、実際の手取りとのギャップに開業後気づくことになりかねません。

出典:厚生労働省「第24回医療経済実態調査の報告(令和5年実施)」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/24_houkoku.html

開業年数による年収の幅

年収のギャップは、開業からの経過年数によっても大きく異なります。開業から日が浅いうちは、借入返済や初期投資の負担が重く、想定していた年収に届くまでに数年単位の時間を要するケースも珍しくありません。

比較項目 開業直後 経営が軌道に乗った後
収入の変動幅 借入返済・初期投資の負担で圧迫されやすい 経費が落ち着き、手取りが安定しやすい
経営努力の反映 患者数がまだ少なく反映されにくい 集患・経費管理の工夫が収入に直結

「開業医の年収」という一括りの数字ではなく、自分の診療科・立地・開業段階に照らして現実的な見通しを持つことが、年収面での「やばい」というギャップを防ぐ第一歩になるでしょう。

「やばい」を防ぎ、後悔しない開業をするためのポイント

ここまで見てきた「やばい」と感じる瞬間の多くは、開業前の準備によって影響を小さくできるものです。最後に、後悔しない開業をするための具体的なポイントを整理します。

開業前に資金計画とシミュレーションを徹底する

資金繰りの「やばい」を防ぐ最も基本的な対策は、開業前の事業計画を楽観的な数字ではなく、複数のシナリオで検証しておくことです。

集患が想定より遅れた場合、設備トラブルが発生した場合など、悲観的なケースも含めて運転資金がどこまで持つかをシミュレーションしておくと、実際に資金が目減りした際にも冷静に対応しやすくなります。

とくに、運転資金は「半年分あれば十分」と安易に見積もらず、集患が軌道に乗るまでの期間を長めに想定しておくことが重要です。融資の返済期間や条件変更の仕組みについても、開業前の段階で金融機関に確認しておくと、いざという時の選択肢を把握できます。

一人で抱えずに専門家・仲間とつながる

人間関係・孤独感の「やばい」は、開業前から相談先を確保しておくことである程度和らげられます。税理士や社会保険労務士、経営コンサルタントといった専門家に加え、地域の医師会や同世代の開業医との勉強会など、悩みを共有できるネットワークを持っておくことが有効です。

  • ・開業前から複数の専門家に相談し、資金計画や労務管理の助言を得る
  • ・同じ診療科・地域の先輩開業医にヒアリングし、実際の苦労を聞いておく
  • ・スタッフとの定期的な面談を仕組み化し、不満を早期に把握する

「経営判断はすべて自分一人で下さなければならない」と抱え込みすぎず、頼れる相手を複数持っておくことが、孤独感を軽減する現実的な備えになります。

労働時間を見据えた人員体制を早めに整える

労働時間・体力面の「やばい」を防ぐには、「経営が軌道に乗ってから人を増やす」のではなく、「軌道に乗る前提で人員体制を先に組んでおく」という発想の転換が必要です。

開業直後は患者数が少なく、人件費を抑えたくなるのが自然な心理ですが、その判断が結果的に院長一人に業務を集中させ、体力的な限界を早める原因になります。

具体的には、以下のような体制づくりが有効です。

  • ・非常勤医師との関係を開業前から構築しておく
    急な体調不良時に代診を頼める相手を、開業してから探すのではなく、勤務医時代の人脈を通じて事前に確保しておく
  • ・看護師・事務スタッフの業務範囲を明確に切り分ける
    問診票の確認や会計処理など、医師でなくても対応できる業務を洗い出し、院長の負担を意図的に減らす設計にしておく
  • ・繁忙期・閑散期に応じた勤務シフトをあらかじめ設計する
    インフルエンザ流行期など患者数が急増する時期を見越し、スポットでの応援体制を検討しておく

「休診にする勇気を持てるかどうか」も、体力面の「やばい」を防ぐうえで見落とされがちな視点です。無理をして診療を続けた結果、体調を崩して長期離脱を余儀なくされるよりも、計画的に休診日を確保するほうが、結果的にクリニックの継続性を高められます。

「理想」と「経営」のバランスを事前に言語化しておく

開業の失敗事例の多くには、「理想の医療」への思いが強すぎて経営の視点が後回しになったケースと、逆に「儲けること」を優先しすぎて開業の軸を見失ったケースの両方が存在します。

どちらか一方に偏るのではなく、開業前の段階で自分なりのバランスを言語化しておくことが重要です。

具体的には、次のような問いを自分に投げかけてみることが有効です。

  • ・譲れない診療方針は何か:収益性は低くても、この診療スタイルだけは崩したくないという軸を明確にしておく
  • ・経営上、どこまでなら妥協できるか:機材のグレードやテナントの立地など、理想より現実的な条件を優先すべき項目を洗い出しておく
  • ・5年後・10年後にどんなクリニックでありたいか:開業時点の状況だけでなく、中長期的な経営の見通しをあわせて考えておく

この言語化は、開業コンサルタントや税理士との事業計画のすり合わせにおいても土台になります。「なんとなく理想を語る」段階から、「どこまでが理想で、どこからが経営判断か」を自分の言葉で整理できている状態にしておくことで、開業後に判断がぶれにくくなります。

まとめ|開業医が「やばい」と感じる瞬間を知り、後悔のない選択を

開業医が「やばい」と感じる瞬間は、資金繰り、労働時間、人間関係、年収という4つの場面に集約されます。いずれも、勤務医時代には病院組織が担っていた負担を、開業後はすべて自分自身で引き受けることになるという構造から生まれるものです。

一方で、これらの多くは開業前の準備によって影響を小さくできる負担でもあります。資金計画のシミュレーション、相談できる専門家やネットワークの確保、無理のない人員体制、理想と経営のバランスの言語化。

これらを一つずつ整理しておくことが、開業後に「やばい」と感じる瞬間を減らすための現実的な備えになります。

「やばい」という言葉の裏にある不安を分解していけば、そのほとんどは事前の準備で対応できるものです。開業するかどうかの答えは、先生自身の状況と価値観のなかにあります。本記事が、その判断材料の一つになれば幸いです。

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