薬物療法の選び方と効果

薬物療法の選び方と効果

毎度のことではありますが、血圧を規定している因子についておさらいをしておきましょう。おさらいですが、血圧を規定している因子は2つしかありません。血管の細さと血液量です。

ホースで水やりをするときのことを考えてください。遠くまで水を飛ばそうと思ったら、どのようにしたらいいでしょうか。そうですね。ホースの先を絞って勢いを増すか、蛇口をひねって水の量を増やすかの2択です。それ以外に遠くまで水を遠くに飛ばす方法は存在しません。

水を遠くまで飛ばすということは血圧が高いことの比喩です。つまり、ホースの水やりと血圧は同じ原理で動いているのです。ホースの先の細さが血管の細さに対応し、水の量が血液量に対応しています。

つまり、血管を拡張するか血液量を減らせば血圧を下げることができるのです。血圧を下げる方法はこの2パターンしかありません。これは、薬を用いて血圧を下げる時も同じです。高血圧の薬は大別すると、血管を広げるタイプの薬か血液量を減らすタイプの薬の2タイプしかないのです。

-血管を広げるタイプの薬

カルシウムチャンネル阻害薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシン受容体阻害薬という種類のタイプが血管を広げる薬です。

カルシウムチャンネル阻害薬が最もよく使われている薬です。古くからある薬が多いので、薬の価格が安いのが特徴です。安いからと言って効き目が悪いわけではありません。また安いからと言って副作用が強いわけではありません。

薬の場合は発売されてから長い年月が経つと、薬価といって厚生労働省が決めている販売価格が下がってきます。なので、価格が安くなるわけです。また、長い間発売されている薬は安全性が高いです。なぜかというと、副作用が強くて危険な薬は販売中止になるので、長い間大きな副作用も報告されず市場に生き残っているということは、その薬は安全性が高いということになるからです。

カルシウムチャンネル阻害薬でも効果がない場合は、アンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシン受容体阻害薬を試すことになります。読んで字のごとく、アンギオテンシンという血圧をあげる物質を阻害することによって、血管を拡張させ血圧を下げる薬です。

アンギオテンシン変換酵素阻害薬は咳が出るという副作用が結構出現するため、この頃は好んで使われることは少なくなりました。アンギオテンシン受容体阻害薬は効果は高いのですが、新薬も多く価格が高いのが難点です。しかし、アンギオテンシン受容体阻害薬は腎臓保護効果や心臓保護効果もあるので、効果としては高い薬です。

カルシウムチャンネル阻害薬やアンギオテンシン受容体阻害薬との合剤なども開発されており、血圧の薬と言えばこのあたりの薬がオーソドックスになりつつあります。

-血液量を少なくする薬

高圧利尿薬、β阻害薬がこちらのタイプの薬です。高血圧専門の人間以外はあまり使わない薬ですが、効果は絶大です。アメリカでは高圧利尿薬が第1選択薬となっています。なぜなら、高圧利尿薬はとても安価なので保険医療制度があまり整っていないアメリカでは好んで使われるからです。

前述したように、安価であっても効果がないわけではないし、副作用が強いわけではありません。むしろ、高圧利尿薬は日本人にこそ適した高血圧の薬だと思います。なぜなら、日本人は塩分過剰だからです。

高圧利尿薬は、尿の中に塩分を出してくれる薬です。尿の量は少し増えますが、トイレから離れられないということが起こることはなく、どちらかというと塩分の多い尿が出るイメージで考えてください。普段から塩辛いものが好きで、血圧が高い人にはとても効果があります。

先ほどのカルシウムチャンネル阻害薬やアンギオテンシン受容体阻害薬などをどれだけ投与しても全く血圧が下がらなかったのに、ほんの少量の高圧利尿薬を投薬するだけで劇的に血圧が下がることもよくあります。

しかし、利尿薬は血圧の薬というより心臓の薬というイメージが強いせいか、血圧を専門とした循環器内科医以外の医師は処方したがりません。日本食を食べている日本人に効果が高い薬なだけに残念です。

他には、β阻害薬という薬も存在します。β阻害薬も心臓や不整脈の薬というイメージが強いせいか、高血圧の人に対してあまり処方されることのない薬です。しかし、これもよく効きます。特に、ストレスが強くて自律神経が過敏になっている人にはとても良く効きます。

β阻害薬の中には、αβ阻害薬というものもあり、こちらはさらに血管拡張作用もあるので効果が強いです。かなり効果が強いので、逆に血圧が下がりすぎないかどうかを注意しながら投与しないといけないぐらいです。

まとめ

-全ての人に効く薬は存在しない

血圧の薬といっても、いろいろな種類が存在します。全員に一様に効果を発揮する薬というものは、残念ながら存在しません。塩分過多の人には高圧利尿薬が効果的でしょうし、血管が収縮しがちの人にはカルシウムチャンネル阻害薬などが効果的でしょう。

人それぞれに合ったタイプの薬が存在します。どのタイプの薬が効果を発揮するかを見つけることこそが、内科医の腕の見せ所なのです。1錠で血圧が下がらないからと言って、2錠にするような考え方は、腕のいい内科医とは言えません。

自分にはどんなタイプの薬があっているのか、興味がある方はぜひ当院へご相談ください。

電話が混み合っている場合もありますが、通話可能ですのでお待ちいただければ幸いです。

確認させていただき次第、当院からメールで連絡をさせていただきます。