高血圧の診断基準と検査方法

高血圧の診断基準と検査方法

高血圧の診断基準はいろいろな基準があって分かりにくいと思います。ここではあえて、理解しやすいように1つだけ数字を書きます。それは、135mmHgです。一般の人はこの数字だけ覚えてください。

そもそも血圧の測定から考えてみましょう。厳密な意味での血圧測定は、腕などの動脈に針を刺して、血圧測定装置につなぎ測定します。これを観血的血圧測定と言います。血圧を測定するたびに動脈に針を刺すというのは現実出来ではありません。

そこで、考案されたのが腕をマンシェットで縛って、その時に聴取されるコロトコフ音を測定することで代替的に血圧を測定する方法です。これを非観血的血圧測定と言います。通常血圧測定と言えば、この非観血的血圧測定のことを指します。しかし、これは観血的血圧と厳密的な意味では一致しません。

例えば、上腕に力こぶを作った状態で非観血的血圧測定を行えば、見かけ上は血圧が高く出ます。しかしこれは、見かけの血圧が高いだけであって実際の血圧(観血的血圧)は高くはありません。

非観血的血圧測定で観血的血圧とほぼ同じ測定結果を得るためには、5分程度リラックスした状態で血圧を3回ほど連続で測定し、その中で一番血圧が低いものを採用しないといけません。

なので、クリニックに来て診察室で測る血圧にはあまり大きな意味はないのです。まず、白衣を着た人間の前で完ぺきにリラックスできる人は存在しないし、歩いてクリニックにやってきて受付やら何やらを済ませて診察室に入るまでに、安静を保てているとはいいがたいからです。

最も大事な血圧の値は、朝のリラックスした時の血圧です。朝目が覚めて、トイレに行ったあと食事などをとる前に数分間リラックスし測定した血圧。これが記録すべき血圧です。なぜなら、この血圧が高いか低いかによって、将来高血圧に伴う合併症を発症するかどうかが決まってくるからです。

この血圧が、先ほど述べた135mmHgよりも高いと、高血圧の治療を始めたほうがいいでしょう。さて、ここで下の血圧について言及していないことに気づいた人がいるかもしれません。実は、下の血圧(最低血圧とも言います)は、大動脈弁狭窄症のような心臓弁膜疾患では無ければ気にする必要がないのです。

-下の血圧は気にする必要がない

そもそも下の血圧というのはどういうものなのでしょう。ここでもう一度観血的血圧測定に戻ります。上の血圧というのは心臓が収縮した時に血液が勢いよく押し出された時の一番高い圧力のことです。これはわかりやすいと思います。

下の血圧は結論から言うと、広がった血管が元に戻るときに生み出される圧力の一番低い値のことです。上の血圧は心臓が作り出し、下の血圧を作り出しているのは全身の血管なのです。まだわかりにくいと思うので、順番に説明します。

筋肉というのは面白い性質があって、縮むことはできるのですが伸びることはできません。腕は伸ばしたり曲げたりできるじゃないかと思われるかもしれませんが、腕を曲げる時は上腕二頭筋が収縮し、腕を伸ばすときは反対側についている上腕三頭筋が収縮しているのです。この時筋肉は縮むことしか行っていません。反対側にいる筋肉は、力が抜けているだけで、能動的に伸びているのではないのです。

心臓は筋肉の塊です。心臓とは言えども結局は筋肉なので、縮むことしかできません。収縮により血液を一瞬送り出すことはできますが、それ以外の時間は力を抜いて縮む前の大きさに戻るのを待っているだけです。しかし、血液は流れ続けていないと困ります。

さてここで、血管に視点を打ちしましょう。心臓が収縮して勢いよく血液が流れたとき、血管はその勢いに押されて外側に広がります。心臓が力を抜いて休んでいるとき、血管は元の大きさに戻ろうとして内側に縮みます。実はこの時の圧力が下の血圧なのです。

ではなぜ下の血圧は気にしなくていいことになるのか。もし、血管が水道管のように全く外に広がらないような管でできていたと仮定してみましょう。するとどういうことが起こるのか。結論としては、下の血圧は0mmHgになります。

なぜかというと、心臓が収縮した勢いで血管は外に全く広がりません。なので、心臓が休んでいる間、血管は内側には縮みません(外に広がっていないので当たり前ですね)。そうすると、血液は流れないので圧力は存在しません。なので、もし血圧を測定したら、上の血圧が130mmHg、下の血圧が0mmHgというようなことになるはずです。

下の血圧があるというのは、血管が外側に広がることができているということです。血管が水道管のようにカチカチになっていないということでもあるのです。これは、動脈硬化という観点からすると、下の血圧があるほうが望ましいということになります。なぜなら、血管が外にしっかり広がれるぐらいやわらかくてしなやかということだからです。

概して年を取ってくると血管が硬くなってくるので、上の血圧はそんなに変わらない(もしくは少し上昇する)のに、下の血圧が下がってきます。つまり上の血圧と下の血圧の差(脈圧と言います)が広がってくるのです。

生理学の教科書の血圧の項には、必ずこの事実が書いてあるのですが、意外に下の血圧に関して誤解している人が多いです(医者も含めて)。実際、様々な高血圧の研究において、上の血圧に比べて下の血圧が合併症や予後に重大な影響を及ぼしていることはほとんどありません。

ただ、前述したとおり大動脈弁狭窄症の予後は下の血圧が重要な因子として存在しています。大動脈弁というのは、心臓の出口にある扉のようなものです。心臓が収縮したときには開いて、心臓が休んでいるときには閉まっているのです。

なぜこのような弁が存在するかというと、もし心臓が休んでいるとき、それはすなわち血管が元の大きさに縮んで下の血圧を生み出しているとき、この弁が開いたままだと心臓のほうに血液が逆流してしまうからです。なので、大動脈弁はとても大事な弁で心臓を持っている生物(魚類、両生類、爬虫類、哺乳類などすべて)はみな持っています。

ここで下の血圧が高いと、大動脈弁が閉まっているときに強い力で押され続けるということになります。生体は力を受けるとそれに反発しようとします。大動脈弁でいうと、硬く狭くなって扉を頑丈にしようとするのです。それが、大動脈弁狭窄症という病気です。あまりに硬く狭くなると命にかかわるので、手術が必要になるぐらい重大な病気です。

なので、高血圧の人の診察の時は聴診器で心臓の音を必ず聞くようにします。大動脈弁狭窄症がある人は、特有の心臓の音がするのでそれですぐにわかるからです。しかし、大動脈弁狭窄症を患っている人は多くはありません。ほとんどの人は、下の血圧を気にする必要がないというのはそういう理由からなのです。

まとめ

以上、医学部の大学2年生レベルの生理学の知識が必要な事柄なので難しい説明になってしまいましたが、覚えてほしい数字は一つだけです。上の血圧が135mmHgをこえたら、高血圧の治療を始めたほうがいい。これだけは、覚えてもらえたらと思います。

電話が混み合っている場合もありますが、通話可能ですのでお待ちいただければ幸いです。

確認させていただき次第、当院からメールで連絡をさせていただきます。