合併症とその予防方法

この記事を書いた人
坂口 海雲

大阪市立大学医学部を卒業後、大阪市立大学循環器内科に入局。ベルランド総合病院、大阪市立大学病院への勤務を経て、福島吉野スマイル内科・循環器内科を開院。Dr.AGAクリニックの総院長も就任中。

所属:日本内科学会日本循環器学会、医学博士(循環器内科)

合併症とその予防方法

高血圧症における合併症を考える前に、高血圧症はそもそもどうして治療しないといけないのかを考えてみましょう。血圧が高いこと、実はそれそのものは問題ありません。例えば、重量上げを行っている最中などは、血圧を測定すると最高血圧が200mmHgを超えていることも不思議ではありません。もちろん、普段の血圧が正常な人であってもです。

つまり、一過性に血圧が高いことは健康上問題となることはありません。真に問題となるのは、恒常的に血圧が高いことです。朝も昼も夜も、ごはん中も仕事中も寝ている最中も血圧が高いことが問題なのです。

血管は細胞でできたゴムチューブのようなものと考えてください。血圧が高い状態が続くということは、常にチューブに力がかかり続けているということです。重量上げのように、一瞬力が加わるぐらいなら、血管はびくともしません。しかし、常にピーンと張りつめたような状態が続くとよくないことが起こります。

単純なゴムチューブであれば、問題ないのかもしれませんが、血管は細胞でできています。常に力にさらされ続けると、生体である細胞はこれはたまらないということで自分を守ろうとします。要するに、力に負けないように硬くなろうとするのです。そう、血管が硬化するのです。人間において力がかかる血管は動脈にしか存在しないので、この現象を私たちは「動脈硬化」と呼んでいます。

動脈硬化で悪いのは、血管が硬くなることだけではありません。硬くなるためには、壁は分厚くならないといけないので、つまり内腔が狭くなります。場合によっては完全に詰まってしまうことさえあります。そして、硬い血管は強くて丈夫なわけではありません。むしろ、もろくて破けやすくなっているのです。長い間屋外に出しておいたゴムホースがパリパリにもろくなってしまうことを想像していただくとわかりやすいかもしれません。

血管が詰まったり破れたりすると、人体には多大な影響が出現します。これが、高血圧症における合併症です。つまり、高血圧症の合併症は血管に不都合が起こることによる合併症なのです。

脳:

脳の血管が詰まったり破れたりすると、脳梗塞や脳出血という病気になります。細かな血管であれば、ほとんど自覚できないほどの症状しかありませんが、大きな血管だとマヒが出たり、場合によっては命の危険性もあります。

また、微小な血管であればすぐには影響はありませんが、長期的には認知症などの影響が出現します。認知症は脳細胞が死んでいく病気です。脳細胞は常に新鮮な血液を要求しているので、血管が劣化して血液を供給できなくなると、脳細胞がだんだんと死滅していくのです。ひいては、それが認知症の発症という悲劇的な病気を引き起こします。

心臓:

心臓の血管は脳の血管と同じで側副血行路が存在しません。つまり、ある1か所が詰まったら、それより下流の血管栄養域はすべて壊死の危険性があるということです。脳の場合は、1か所詰まったぐらいであればたとえマヒが起こっても命にまでは係わることは少ないですが、心臓の場合は常に命の危険があります。

また、脳と同じで心臓の細胞は一度死んだら二度とよみがえりません。なので、高血圧合併症で一番大きな問題となるのは脳と心臓なのです。

目:

網膜の血管はとても細い動脈の集合です。高血圧の影響が出るのは、細い血管からなので実は網膜の血管は比較的早くから影響を受けます。ただ、目がいきなり見えなくなるということはありません。

目は意外にも、結構悪くなっても視力が保たれていることが多いです。というのは、視力のほとんどをつかさどる部分は、黄斑部という網膜の中心部分の小さな範囲だからです。黄斑部にまで病変が到達しない限り、目が見えにくいという症状を自覚することも困難です。なので、気付いた時には結構症状が進行していたということが起こりえます。長年高血圧を放置していた場合、眼科健診は必ず受けることをお勧めします。

腎臓:

目と同じく気づきにくい臓器が腎臓です。腎臓はとても細い血管の集合体で、血液から不要な老廃物をこしとって尿を作っています。高血圧の影響は細い血管から出てくるので、腎臓は比較的早い段階から影響を受けます。細い血管が詰まって、尿を作る効率が落ちてくるのです。

であれば、早くから合併症に気付けそうなものですがそうはいきません。なぜかというと、腎臓はとても容量の大きな臓器で、腎機能の95%が失われても尿自体は作り出すことができるからです。つまり、かなり遅くになるまで、症状としては現れてこないことになります。

予防するにはどうすればいいのか

まずは、高血圧がほかの臓器にどれぐらい悪影響を及ぼしているのかを検査する必要があります。脳であればMRI、心臓であれば心電図やCT検査、目であれば眼底検査、腎臓であれば血液検査です。

高血圧の怖いところは、症状が出るまでかなりの時間がかかることと、症状が出てからではかなり病状が進行して取り返しがつかないところまで来ていることです。症状が出る前に、各種検査で高血圧の合併症が進行していないかチェックする必要があります。少なくとも、MRIは3年に1度、心電図や眼底検査、血液検査は1年に1度ぐらいは受けたほうが賢明です。

予防は血圧を下げることにつきます。血圧の下げ方についてはほかのコラムに譲りますが、内服薬について少し補足説明をしておきます。一部の高血圧の薬は、腎臓や心臓などを保護する効果が認められています。なので、適切な血圧の薬を選択することで、合併症の発症リスクを低くすることが可能です。

詳しくは、医師にご相談ください。

電話が混み合っている場合もありますが、通話可能ですのでお待ちいただければ幸いです。

確認させていただき次第、当院からメールで連絡をさせていただきます。