「継承開業はスケジュールが短い」と聞いて準備を後回しにしていたら、いつの間にか契約期限が目前に迫っていた、といった事態に陥る医師は少なくありません。「いつから準備を始めればいいのか」「DD(デューデリジェンス)とは何をする期間なのか」といった疑問を抱えたまま、なんとなく情報収集だけを続けているケースも多いでしょう。
本記事では、クリニックの第三者承継を検討している医師に向けて、以下の内容を順に解説します。
- 標準的な継承スケジュール(準備期間6か月〜1年以上)の全体像
- 承継スケジュールを左右する7つのステップ
- 継承を成功させるためにまず読むべき書籍3選
- スケジュールを狂わせる5つの落とし穴と対策
日本医師会総合政策研究機構の調査によると、診療所経営者のうち「現段階で後継者候補はいない」と回答した割合は47.9%にのぼります。
親族内承継が難しいなか、第三者承継は譲渡側・譲受側双方にとって現実的な選択肢として広がっており、デューデリジェンスや行政手続きの遡及申請など、新規開業とは異なる独自のスケジュール管理が求められる点も特徴です。
正確なスケジュール感を持って準備を進めるための材料として、本記事をお役立てください。
目次
クリニック継承(医院承継)とは|新規開業との違いとメリット
クリニックの継承とは、既存のクリニックが持つ患者基盤・スタッフ・医療機器・診療体制などを、新しい医師が引き継いで開業する形態のことです。「医院継承」「医業承継」「第三者承継」など呼び方は文脈によって異なりますが、いずれも既存の診療所を引き継ぐ点で共通しています。
クリニック継承の3つの形態
継承の方法は、譲渡側の法人形態によって大きく3つに分類されます。
| 形態 | 概要 | 承継の対象 |
|---|---|---|
| 個人診療所の事業譲渡 | 資産・負債・契約等を個別に譲渡側から譲受側へ移転する方法 | 診療所の廃止・新規開設の手続きが必要 |
| 持分あり医療法人の承継 | 出資持分譲渡・出資持分払戻などにより、法人格をそのまま引き継ぐ方法 | 出資持分の移転に加え、社員・理事の交代が必要 |
| 持分なし医療法人の承継 | 退社入社方式により、社員・理事・監事を入れ替える方法 | 法人格・許認可をそのまま引き継ぐことが可能 |
個人診療所の承継では、譲渡側の診療所廃止と譲受側の新規開設という2段階の行政手続きが発生します。
一方、医療法人の承継では、個人診療所のような保健所への「廃止・新規開設」の手続きが原則不要です。これにより、行政手続きの負担が大幅に軽減されるだけでなく、許可病床数などの権利をスムーズに維持できる点は、経営資源を効率的に引き継ぎたい医師にとって最大の魅力といえます。
どの形態に該当するかにより、後述するスケジュールや必要な準備は大きく異なってきます。
新規開業と比較した3つのメリット
継承開業には、新規開業(スケルトンからの開業)と比較して、主に3つのメリットがあります。
1つ目は、開業費用を抑えられる点です。
既存の内装・医療機器・設備をそのまま引き継ぐことで、新規開業に必要な大規模な施工費を削減できる場合が多くあります。内装工事に数千万円単位の費用がかかる新規開業に対し、継承では既存資産の活用により初期投資を圧縮できるため、借入金の負担が軽くなり、開業後の資金繰りの安定にもつながりやすくなるでしょう。
2つ目は、患者基盤を引き継げる点です。
前院長を信頼して通院していた患者をそのまま引き継ぐことができ、開業直後から一定の来院数が見込めます。ゼロから集患を行う新規開業に比べ、収益が安定するまでの期間が短くなりやすいでしょう。
3つ目は、開業までの準備期間を短縮できる点です。
物件選定から設計・施工まで半年から1年程度を要する新規開業に対し、継承では建物・設備が既に整っているため、内装工事等のプロセスを大幅に圧縮できるでしょう。診療準備そのものに集中できる時間を確保しやすくなる点も特徴です。
後継者不在率47.9%という医師業界の現状
継承開業が広がりを見せる背景には、診療所経営者の高齢化と後継者不在という構造的な課題があります。
日本医師会総合政策研究機構の調査によると、診療所経営者のうち「現段階で後継者候補はいない」と回答した割合は47.9%にのぼり、親族内に承継できる候補がいない診療所が増えるなか、第三者への承継は現実的な選択肢として位置づけられるようになりました。
同調査では、承継プランの検討にあたって経営者が不安に思う事項として「信頼できる相談先が見つかるか」「後継者候補を自力で探せるか」「妥当な金額で事業譲渡できるか」が上位に挙げられます。
譲渡側にとっては、地域医療を途切れさせずに引退でき、患者やスタッフへの影響を最小限に抑えられるという利点があり、譲受側にとっても、開業資金を抑えながら早期の経営安定を図れる手段として、第三者承継への関心は今後さらに高まっていくでしょう。
出典:医業承継実態調査 日本医師会総合政策研究機構
https://www.jmari.med.or.jp/download/WP440.pdf
クリニック継承の標準スケジュール|準備期間別の進め方
クリニック継承を検討する際、最も気になるのが「実際にどのくらいの期間必要なのか」という点ではないでしょうか。ここでは、第三者承継の標準的なスケジュールを準備期間別に解説します。
全体スケジュールの目安(標準6か月〜1年以上)
第三者承継のスケジュールは、専門家への相談から最終契約・クロージングまで、標準的には6か月〜1年以上を要するとされており、全体の流れを表にまとめると以下のとおりです。
| 時期の目安 | 主な内容 |
|---|---|
| 9〜6か月前 | 専門家への相談・仲介業者の選定・秘密保持契約の締結 |
| 5〜4か月前 | 候補先との面談・基本合意書(LOI)の締結 |
| 3〜2か月前 | デューデリジェンス(DD・買収監査)の実施 |
| 1か月前〜クロージング | 最終契約の締結・対価支払い・行政手続き |
条件交渉やデューデリジェンスに時間を要する場合、1年を超えるケースも珍しくありません。継承開業は新規開業と異なり内装工事などの物理的な準備期間を短縮できる一方、「人」と「権利」の移転を伴うため、相手方との交渉や行政手続きには独自の時間管理が必要になります。
出典:医業承継セミナー資料 山口県医師会
http://www.yamaguchi.med.or.jp/wp-content/uploads/2026/01/20260115no2.pdf
9〜6か月前:専門家への相談と仲介業者の選定
この時期は、まず「開業希望地」「時期」「診療コンセプト」など自院の大枠の方針を固めることが先決です。そのうえで、医業承継に詳しい専門家や仲介業者に相談し、秘密保持契約(NDA)を締結することになります。継承案件は経営情報を含むため、詳細な資料を閲覧する前にこの契約を結ぶのが一般的です。
日本医師会総合政策研究機構の調査によれば、承継プランの相談先として「顧問税理士」を選ぶ割合が39.5%と最も多く、次いで「郡市区医師会」が28.0%となっています。
M&Aの実務には特殊なノウハウが求められるため、将来的に完全リタイアするのか、あるいは非常勤として診療に残るのかといったライフプランも含め、複数の専門家の意見を聞きながら最適なスキームを検討するのがよいでしょう。
5〜4か月前:候補先との交渉・基本合意書の締結
具体的な継承候補先が見つかった段階では、以下のプロセスに進みます。
- 案件概要(ノンネーム)の検討:匿名で提示された条件が、自身の希望と合致するか確認する
- トップ面談・院内見学:譲渡側の院長と直接面談し、経営方針や施設の状態を確認する
- 基本合意書(LOI)の締結:譲渡価格やスケジュールの大枠について、双方が前向きであれば合意書を交わす
基本合意書は最終契約ではありませんが、この時点で主要な条件を固定することで、その後のデューデリジェンスへ円滑に進められます。特にトップ面談では、書面に表れない前院長の診療スタイルを確認することが重要であり、患者離れを防ぐためにも、地域のニーズと自身の専門性が合致するかを見極めておきましょう。
3〜2か月前:デューデリジェンス(DD)の実施
基本合意の締結後は、デューデリジェンス(DD・買収監査)を実施します。期間の目安は1〜2か月程度です。
| 調査項目 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 財務・税務 | 収益性・借入状況・過去の納税状況の確認 |
| 法務・労務 | 契約関係・許認可・未払い残業代の有無などのリスク抽出 |
| 設備 | 医療機器や建物の老朽化状況の確認 |
この調査結果によって、当初の基本合意の条件が見直されることもあるため、想定よりも時間を要する場合があることを念頭に置いておく必要があります。
特に、社会保険対象の職員が5名未満の個人診療所を承継する場合、新たな開設者が労務関連の手続きを怠ると、職員が一時的に無保険状態になるリスクもあるため注意が必要です。DDの結果に問題がなければ、最終的な譲渡価格や引き継ぎ条件を最終調整する段階へと移ります。
1か月前〜契約・クロージング:最終契約と行政手続き
DDの結果に問題がなければ、最終的な譲渡条件を決定し、クロージングへと進みます。
- 最終契約の締結:譲渡価格、資産・スタッフの引き継ぎ範囲、契約日以降の責任関係などを明確に定める
- クロージング:対価の支払いと資産・権利の移転を実施する
- 行政手続き:保健所への診療所開設・廃止の届出、厚生局への保険医療機関指定申請を行う
特に重要なのが、保険診療を継続して行うための遡及指定の手続きです。廃止日の翌日を新たな開設日として、一定の要件を満たせば開設日に遡って保険医療機関の指定が適用されます。新規指定の申請締め切りは原則として毎月20日とされており、翌月1日からの保険診療開始に間に合うよう、事前に管轄の厚生局へ相談しておきましょう。
出典:保険医療機関等の指定について 北海道厚生局
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/hokkaido/newpage_00140.html
承継スケジュールを左右する7つのステップ
クリニック継承のスケジュールは、前章で紹介した時期別の準備期間だけでなく、各プロセスにおける調査の質や意思決定の速さによっても大きく左右されます。実務上の留意点とともに、代表的な7つのステップを以下で見ていきましょう。
①ノンネーム案件の検討〜②秘密保持契約の締結
最初のステップは、ノンネーム(匿名)の状態で提示された案件概要の検討です。譲渡側の経営情報を保護するため、この段階ではエリア・診療科・売上規模といった、特定につながらない情報のみが開示されます。
提示された案件が自身の希望に近い場合は、仲介業者を通じて秘密保持契約(NDA)を締結します。所在地や詳細な財務諸表、スタッフ構成など、経営判断に不可欠な実名データを確認できるのはこの契約を交わした後です。
検討が長引いて好案件を逃さないよう、初期段階から自身の判断基準を明確にしておくことが円滑な進行のポイントとなります。
③トップ面談・院内見学
NDA締結後、さらに前向きに検討したい場合は、譲渡側の院長と直接会うトップ面談・院内見学に進みます。
院内見学は、書面だけでは把握しきれない施設の状態やスタッフの動き、患者対応の流れを確認できる貴重な機会です。また、前院長が一定期間「非常勤」として残る意向があるかどうかも、患者離れを防ぐ観点から確認しておきたい重要なポイントとなります。
④基本合意書の締結
面談と見学を経て双方が合意した場合は、基本合意書(LOI)を締結し、主に以下の内容を取り決めます。
- 譲渡価格の大枠や算定方法
- 承継対象(資産・スタッフ・契約関係)の範囲
- 今後の詳細スケジュール
- 独占交渉権の付与期間
基本合意書自体に最終契約のような法的拘束力を持たせないのが一般的ですが、独占交渉権を得ることで、他の候補者を気にせず、多額の費用と時間を要するデューデリジェンスに集中できるようになります。
⑤デューデリジェンス(DD)の実施
基本合意後は、専門家によるデューデリジェンス(買収監査)を1〜2か月程度かけて実施し、財務・税務・労務・設備などを税理士や弁護士が多角的に精査します。
個人診療所の場合、経理上の公私混同や未払い残業代の有無が、潜在的なリスク(簿外債務)となっているケースが見られます。承継後にスタッフとの間でトラブルが生じたり、予期せぬ税金の追徴を受けたりすることを防ぐため、リース契約の承継可否も含めてリスクを徹底的に洗い出しておきましょう。
⑥最終契約の締結とクロージング
DDの結果をもとに最終的な譲渡価格や条件を調整し、最終契約(譲渡契約書)を締結します。
- 確定した譲渡価格と支払い条件
- 資産・権利・スタッフの具体的な引継ぎ範囲
- 表明保証(開示情報が真実であることの保証)
- 瑕疵担保責任とクロージング日の設定
契約締結後は、対価の支払いと資産の移転を行うクロージングを実施します。法人承継の場合、過去の診療責任や簿外債務のリスクも引き継ぐことになるため、契約書に表明保証条項を設け、譲渡側にも誠実な情報開示を確約してもらうのが実務上のスタンダードです。
出典:M&Aナビゲートブック 日本政策金融公庫
https://www.jfc.go.jp/n/finance/jigyosyokei/pdf/navigate_a.pdf
⑦行政手続き(保険医療機関の指定申請・遡及申請)
クロージング完了後は、速やかに保健所および厚生局への届出を進めます。
- 保健所:診療所廃止届(譲渡側)・診療所開設届(譲受側)の提出
- 厚生局:保険医療機関指定申請
保険診療を中断なく継続するためには、前院長の廃止日の翌日を新たな開設日として、指定を遡って適用させる遡及指定の手続きが極めて重要になります。地方厚生局の規定により指定申請には毎月20日などの締め切りがあり、要件を満たさないと一定期間、自費診療のみで対応せざるを得ない空白期間が生じてしまう点に注意してください。
遡及が認められるためには、開設者が変わるだけで実態として診療が継続している、といった一定の要件を満たす必要があります。事前に管轄の厚生局へ遡及要件を確認したうえで、手続き期限から逆算してクロージング日を設定する、緻密な工程管理が求められるでしょう。
クリニック継承を成功させるために、まず読むべき本3選
クリニック継承を進めるうえでは、専門家への相談と並行して、継承全体の流れや実例を体系的に把握しておくことが役立ちます。医業承継は「人」と「資産」の承継が複雑に絡み合うため、事前に全体像を知ることでトラブルを未然に防ぎやすくなるでしょう。ここでは、継承を検討する医師にとって特に参考になる書籍を3冊紹介します。
「医業承継の教科書〈親族間承継・M&Aの手法と事例〉」(日本医事新報社)
継承を検討する医師にまず手に取っていただきたいのが、日本医事新報社から刊行されている「医業承継の教科書〈親族間承継・M&Aの手法と事例〉」です。
本書は、親族内承継と第三者承継(M&A)の両方を扱っており、それぞれの手法の特徴や具体的な進め方、実際の事例が紹介されています。日本医師会総合政策研究機構の調査によると、経営者の多くが「妥当な金額での譲渡」や「信頼できる相談先の確保」に不安を感じており、こうした不安を解消するための基礎知識が体系化されている点が本書の強みです。
特に、相続・承継問題に悩む院長先生に向けた一冊として位置づけられており、税務・法務といった専門的な内容も医師向けにわかりやすく解説されています。第三者承継を検討している場合でも、親族内承継との比較を通じて自院に合った選択肢を見極める際の参考になるでしょう。
その他の推薦書籍2冊
「医業承継の教科書」と合わせて読むことで、より多角的な視点が得られる書籍として、以下の2冊が挙げられます。
| 書籍名 | 特徴 |
|---|---|
| 「医業承継 地域医療を未来へ繋ぐ、医療法人の相続・承継とM&A」 | 医療法人特有の出資持分に関する論点や、地域医療の継続性という観点から承継を解説している |
| 「独立を考えたらまっさきに読む医業の承継開業」 | 承継開業を選択肢として検討し始めた段階の医師向けに、新規開業との比較を含めて解説している |
「医業承継の教科書」が親族内承継・第三者承継の両面を幅広くカバーしているのに対し、これらの書籍は医療法人特有の論点や、開業形態の選択といった、より個別の視点から継承を補足する内容です。複数の書籍を読み比べることで、自院のケースに近い事例や論点を見つけやすくなるでしょう。
出典:出資持分のない医療法人への移行マニュアル 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/dl/houkokusho_shusshi_07.pdf
書籍で得た知識を実践に活かすポイント
書籍は継承全体の流れや一般的な論点を体系的に理解するうえで有用ですが、実際の継承は案件ごとに条件が異なるため、書籍の内容をそのまま自院に当てはめられるわけではない点に注意が必要です。書籍を読み進める際は、以下のような視点を持っておくと、その後の専門家への相談がスムーズに進みます。
- スキーム defects:自院が検討しているのは個人診療所の譲渡か、医療法人の承継か、該当する章を重点的に確認する
- 用語の把握:デューデリジェンス・基本合意書・表明保証といった専門用語の意味を事前に押さえておく
- 差異の意識:紹介されている事例と自院の診療科・地域性・スタッフ体制との違いを客観的に分析する
事前に書籍を通じて全体像と用語を把握しておくことで、税理士やM&A仲介業者との打ち合わせの際に、より踏み込んだ質問や自院の状況に即した相談が可能になります。
クリニック継承で失敗しないための5つの注意点
クリニック継承は、新規開業と比べて準備期間を短縮できる一方、既存の資産・人材・契約関係を引き継ぐからこそ生じる特有のリスクも存在します。継承を成功させるために特に押さえておきたい5つの注意点を、以下で見ていきましょう。
1. スケジュールに余裕を持つ(余裕期間の確保)
継承の標準スケジュールは6か月〜1年以上とされていますが、実際には条件交渉やデューデリジェンスの結果によって、当初の予定より長引くケースが少なくありません。
特に、デューデリジェンスで隠れていた不都合な事実や新たな問題が発覚した場合、譲渡価格や条件の再交渉が必要となり、これが交渉の打ち切りにつながることもあります。開業希望時期から逆算してスケジュールを組む際は、各ステップに余裕を持たせ、想定より遅れた場合の代替案も準備しておくのがよいでしょう。
2. 建物・医療機器の老朽化チェック
継承で引き継ぐ物件・医療機器は、前院長が長年使用してきたものであるため、経年劣化による老朽化リスクが伴います。内装が綺麗に見えても、目に見えない給排水設備や医療機器の内部部品が寿命を迎えているケースも珍しくありません。
院内見学・デューデリジェンスの段階で、以下のような点を確認しておくことが重要です。
- 給排水設備・空調設備のメンテナンス履歴と取得時期
- 将来的な機器増設に対応できる電気容量の有無
- 医療機器の保守契約・リース契約の承継可否
- エックス線装置等の構造基準への適合状況(行政指導歴の有無)
これらの確認を怠ると、開業直後に大規模な修繕費が発生し、経営を圧迫する要因になりかねません。
3. スタッフの引き継ぎと離職リスク
地域や患者を熟知したスタッフの継続雇用は継承の大きなメリットですが、院長の交代をきっかけにスタッフが離職してしまうリスクも存在します。経営者の変更は、スタッフにとって雇用条件や新院長との相性に対する不安を伴うものです。
離職の連鎖を防ぐためには、以下の対策が欠かせません。
- 丁寧な説明:譲渡側院長による経緯説明と、新院長との面談による不安の払拭
- 公表タイミングの管理:動揺を避けるため、原則として最終契約締結後に公表する
- 条件の早期提示:賃金体系や診療体制に変更がある場合、早い段階で意向を確認する
4. 行政手続き・保険診療の遡及申請の漏れ
行政手続きで最も注意すべきは、保険医療機関の指定に関する遡及申請(そきゅうしんせい)です。保険診療を中断なく継続するためには、前院長の廃止日の翌日を新院長の開設日として指定を遡って適用させる必要がありますが、これには「実態として診療が継続していること」など、一定の要件を満たさなければなりません。
地方厚生局の規定により、指定申請には毎月20日前後に厳格な締め切りが設けられており、これを逃すと承継後に一時的に保険診療が行えない「空白期間」が生じ、患者に自費負担を強いる事態を招きます。
必ず事前に管轄の厚生局へ要件を確認したうえで、手続き期限から逆算して引き継ぎ日(クロージング日)を決定することが重要です。
5. 親族間継承特有の税務リスク(出資持分)
親族間で継承を行う場合には、出資持分や資産の移転に伴う税務リスクに注意が必要です。長年の経営で蓄積された剰余金により、出資持分の評価額が大きく膨らんでいるケースがあり、その移転には多額の贈与税・相続税が課されるおそれがあります。
こうしたリスクを回避し円滑な承継を促すため、国は認定医療法人制度による相続税・贈与税の納税猶予や免除の措置を整備しています。親族間継承を検討する際は、早い段階で医療に詳しい税理士等の専門家に相談し、制度の活用を含めたシミュレーションを進めておくことが、経営の安定性を守る鍵となるでしょう。
出典:認定医療法人制度の申請について 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000205627.html
まとめ:計画的なスケジュール管理が継承成功の鍵
クリニックの第三者承継は、専門家への相談から最終的な引き継ぎ完了まで、標準的に6か月〜1年以上の準備期間が必要です。ノンネーム案件の検討から行政手続きの完了まで、複数のステップを確実に踏んでいくことが求められる一方、新規開業と異なり内装工事などの物理的な準備は不要となる場合が多く、以下のような継承特有のプロセス管理が成功の鍵を握ります。
- 基本合意書の締結:譲渡価格や独占交渉権など、大枠の条件を早期に固めることが重要です
- デューデリジェンス(DD)の実施:財務・労務・設備の老朽化状況など、潜在的なリスクを精査します
- 保険医療機関の遡及申請:診療の空白期間を作らないために、行政手続きの期限から逆算した工程管理が不可欠です
書籍などを活用して全体の流れや他院の事例を事前に把握しておくと、専門家とのコミュニケーションも円滑に進めやすくなります。早い段階から信頼できる専門家への相談を開始することで、想定外のスケジュール遅延や行政手続きの漏れを防ぎやすくなるでしょう。
本記事で解説したスケジュールや注意点を参考に、計画的な準備を進めていただければ幸いです。