開業よりローリスク?「雇われ院長」という第三のキャリアパスとは

「開業医はやめとけ」といった声が聞かれるように、独立開業には多大な資金と経営責任、そして廃業リスクが伴います。一方で、病院勤務医として多忙な日々を送る中で、待遇改善やワークライフバランスを求めてキャリアの転換を考える医師も少なくありません。

そこで今、開業リスクを抑えつつ、キャリアアップを目指せる「雇われ院長」という道が注目されています。

雇われ院長(管理医師や施設管理者とも呼ばれます)は、クリニックの開設者(オーナー)から雇用される立場で、初期投資なしに経営ノウハウを学び、勤務医よりも高い給与と安定した待遇を得られる可能性が高い、第三のキャリアパスです。

本記事では、この雇われ院長という働き方の実態、メリット・デメリット、年収相場、そして特に注意すべき法的リスクや契約のポイントについて、開業医との比較を交えながら専門的に解説します。あなたの理想とする働き方を見つけるヒントにしてください。

雇われ院長とは?―管理医師の定義と役割

開業よりローリスク?「雇われ院長」という第三のキャリアパスとは

「雇われ院長」とは、クリニックの常勤医師の求人で「院長」「管理医師」「施設管理者」といった形で募集されるポストを指します。法的には医療機関の管理者として勤務することが多いです。

この働き方は、自ら医療機関を開業し、開設者(クリニックのオーナー)として最高責任者を務める「開業医(院長)」とは異なります。医療法人などのオーナーから「雇われている」立場であることが最大の特徴です。

雇われ院長が求められる背景としては、法人が分院を新規開設する際、運営体制の変更、あるいは現院長の後任募集といったケースが多いです。法律上、医療機関には院長(施設管理者)の配置が必要ですが、法人経営クリニックでは、実際には「診療に専念してほしい」場合や「勤務医以上の責務を求めない」場合も多く見られます。

参考:厚生労働省「医療法10条1項」

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参考:「医療法12条1項」

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参考:「医療法46条の5第6項」

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日々の業務範囲(診療・スタッフ・経営関与)

雇われ院長の仕事内容は、ほとんどが外来患者の診療です。ただし、病院勤務医と異なり、幅広い疾患・患者への一次対応が求められます。

笑顔会では、この業務範囲を画一的に定めません。 「診察だけに集中したい」ドクターから「経営など独立に向けていろいろと学びたい」ドクター「時短勤務」など、様々なワークライフバランスのニーズに柔軟に対応しています。

業務の具体的な範囲は、経営母体の方針や病院の規模によって大きく異なります。

  • 診療業務への専念

近年は、診療に専念できるクリニックが増えています。開設者が経営の負担を負うため、雇われ院長は経営の負担を負うことなく、医療業務に集中できるケースが多いです。

  • 診療以外の業務

管理医師としての責務として、労務管理や医師会への参加など、診療以外の業務が増える可能性もあります。また、法人の経営会議や地域の医師会の行事などへの参加が求められることもあります。

  • 経営・人事への関与

法人によっては、院長に採用や経営管理などを任せるところもありますが、一般的には、院内設備や医療機器購入の権限、人事権がない場合もあります。雇われ院長は中間管理職としての役割を求められることもあります。

管理医師の条件・常勤要件

雇われ院長は、医療法上の診療所の管理者に就任し、院長として診療業務に従事します。

  • 常勤要件

雇われ院長は、管理責任を果たすために、原則として常勤医師として募集されます。

  • 理事への就任

クリニックの開設者が医療法人の場合、医療法上の規定により、管理医師は原則として医療法人の理事にも就任することが必要です。ただし、理事としての業務(医療法人の経営に関する事項)を行うことを求められるかはケースバイケースです。

  • 開設者との関係

個人開業医の場合、開設者=管理者=院長となるのが典型的です。医師個人が開設者である場合、原則として自らクリニックを管理しなければならないと医療法で規定されています。

雇われ院長のメリットとキャリア価値

雇われ院長は、勤務医や開業医と比較して、経済的な安定とキャリア形成の機会を両立できるメリットがあります。

開業費用不要・経営ノウハウの獲得

  • 初期投資不要で低リスク

雇われ院長は初期投資が不要です。自ら開業する場合に必要となる多額の資金(新規開業で数千万円など)を準備する必要がなく、借金を背負ったり、設備の購入資金を求められたりする心配もありません。

  • 経営ノウハウを学べる

将来独立開業を目指している医師にとって、金銭的なリスクを抱えずに経営ノウハウを学べる点は大きなメリットです。法人によっては、診療報酬での収益の上げ方やスタッフの指導方法を教えてくれるところもあります。

待遇の安定性とワークライフバランス

  • 給与が高い傾向

おおむね、病院勤務医の時より給与が高い傾向にあります。役職手当等により、勤務医と比べて高い年収が期待できます。

  • 待遇の安定性

運営母体から雇用されているため、給与や待遇が安定しており、患者数の多寡にあまり左右されないという特長があります。

  • ワークライフバランス

当直、夜間・休日の呼び出しがないため、勤務時間を固定して外来中心で働きたい医師には有効な選択肢です。オンとオフの切り替えがしやすく、ワークライフバランスを重視する働き方に適合します。

雇われ院長を選ぶべき人の特徴

雇われ院長は「臨床に専念したい」医師や「開業意向がある」医師にとって特に有効な選択肢です。

  • 将来開業意向がある医師

リスクなしに経営を学べるため、開業のための「修行」をしたい医師に適しています。期間を決めてチャレンジすることで、採用側も意識の高い医師を評価する傾向があります。

  • 安定志向の医師

自ら借り入れなどを行う必要がないため、過剰なリスクを取らずに安定した医師人生を送りたい医師におすすめのポジションです。

  • 勤務医からのステップアップ

管理職としての業務が増えるため、勤務医からのステップアップを考えている医師に適しています。

雇われ院長のデメリットと注意点

雇われ院長は待遇面で優遇されますが、管理職としての責任や裁量の制約といったデメリットも伴います。

裁量の制約と評価・減給リスク

  • 裁量の制約

人事権や院内設備・医療機器購入の権限がない場合があるなど、自身の思い通りに経営を動かせないことに不満を感じる可能性があります。裁量権を持って働きたい場合は、雇用の前に経営方針をよく理解しておくことが必要です。

  • 経営者の方針への従属

開設者(オーナー)の経営者の方針には従わなければならず、意見が合わないと致命的になる可能性があります。「なかなか思うような経営ができない」と、もどかしさを感じることもあるでしょう。

  • 評価・減給リスク

雇用された立場として定年が存在します。再雇用となった場合、収入や待遇が下がる可能性が考えられます。また、施設によっては、経営状態によって給与が左右される可能性もあります。

診療以外の負担・行政上の責任

  • 診療以外の業務の増加

管理者として、労務管理や業者との交渉など、診療以外の事務的な業務が増える可能性があります。

  • 行政上の管理責任

雇われ院長であっても管理医師として、安全管理体制確保義務や従業者監督義務といった医療法上の行政上の管理責任が発生します。

  • 従業員の一般的なトラブル:従業員が起こした一般的なトラブルについては、管理医師ではなく法人が責任を取ります。(笑顔会はこれを明確に明記しています)
  • 責任が問われるケース:明らかに、管理医師が従業員に無理な働かせ方をした(残業を強制した)などの場合にのみ責任を問われますが、通常は責任を問われることはありません。
  • トラブル時の責任

経営破綻などが起こった場合、行政上の管理責任が生じるため、形式的には責任を負う必要があります。しかし、医療法上の最終的な責任者は開設者(オーナー)であり、管理者は開設者によって管理を代行しているに過ぎないため、対応できる範囲であることがほとんどです。

笑顔会では、雇われ院長に経営責任を求めていません。 よって、連帯保証を求めることもないですし、万が一経営破綻したとしても損害賠償を求められるということはありません。

年収・待遇の実態と交渉のポイント

開業よりローリスク?「雇われ院長」という第三のキャリアパスとは

院長職は、医師全体の平均年収(約1,338万円)と比べると高待遇のポジションです。

参考:「令和6年賃金構造基本統計調査」

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年収相場(病院/診療所/科目差)

  • 院長職の平均年収

病院長全体の平均年収は約2,633万円であり、医師全体の平均年収を約1,300万円上回っています。

  • 診療所の院長は高水準

医療法人における院長の平均年収を比較すると、クリニック(診療所)の院長が高い傾向にあります。

  • クリニック(入院診療収益あり・医療法人):約3,438万円。
  • クリニック(入院診療収益なし・医療法人):約2,578万円。
  • 雇われ院長の年収相場

雇われ院長の求人は、年収1,500万円~2,000万円程度が多く、勤務医の平均年収1,000万円~1,500万円と比べると高い水準です。経営が安定したクリニックの院長職では、週4日で2,000万円以上、中には2,000万円後半の求人もあります。

参考:厚生労働省:「第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告」

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参考:Yahooニュース「「開業医」と「勤務医」の年収差は“約2倍”!?これほどの差が生まれるのはなぜ?」

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残業代・手当・時短の取り扱い

  • 院長手当:管理医師として勤務することで、通常の勤務医に比べ「院長手当」などが付くため、相場給与より100万円~200万円ほどプラスになる場合が多いです。
  • 管理監督者扱い:雇用契約の場合、労働法が適用されますが、雇われ院長が「管理監督者」(労働基準法41条2号)扱いになると、深夜割増賃金を除き、残業代や休日出勤手当が支払われない可能性があり、休憩時間も付与されない場合もあります。
  • 契約形態による注意:雇用契約ではなく、委任契約や業務委託契約となる場合、労働者としての保護(有給休暇の付与、時間外手当など)を受けられないリスクがあります。

待遇交渉・求人選びの注意点

  • 権限の確認

入職前に、物品の購入や人事の決定権がどこまであるのかを、面接などで確認することが大切です。「どこまで裁量があるか」を明確にしましょう。

  • 専門性を生かした交渉

新規開設クリニックなどでは、専門性が生かせるよう、診療内容や医療機器の導入について柔軟に交渉に応じてもらえることがあります。

  • 成果による給与アップ

院長職は成果に応じた給与UPを目指しやすく、地域連携に積極的に関与するなど、経営意識の高い姿勢を示すことで、待遇交渉を有利に進められる可能性があります。

法的リスクとNG例:名義貸しの境界線

雇われ院長として働く上では、開設者(医療機関の開設・経営の責任主体)が誰であるかを把握し、名義貸しのリスクを適切に理解することが極めて重要です。

開設者別の違い(医療法人/一般社団/医師個人)

クリニックの開設者(運営主体)によって、医師個人が負う責任の範囲が異なります。

参考:厚生労働省「医療法7条の規定」

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開設者(オーナー)管理医師の責任名義貸しリスク
医療法人(社団)原則、法人が契約当事者。管理医師は原則理事に就任が必要。低い(法人名義での契約が基本)
一般社団法人法人が契約当事者。理事就任は不要。低い(法人名義での契約が基本)
医師個人原則、開設者=管理者=院長となる。高い(非医師オーナーの隠れ蓑になりやすい)

開設者が法人の場合、原則として法人が契約の当事者となります。そのため、雇われ院長である医師個人が、クリニックの債務を契約に基づき直接負担することは一般的にありません。管理医師は原則として理事に就任する必要があります。

  • 一般社団法人

一般社団法人の場合も法人が開設者ですが、医療法上の要請により管理医師が理事に就任する必要はありません。

  • 医師個人

クリニックの開設者が医師個人の場合、原則として開設者=管理者=院長となります。

参考:厚生労働省「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」

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参考:厚生労働省「医療法46条の6第1項の規定」

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名義貸しの類型と判例・ペナルティ

  • 名義貸しの境界線

厚労省の通知により、クリニックの開設者となる医師は、開設・経営する意思を有していることが求められています。非医師の営利団体などが実質的なオーナーであるにもかかわらず、医師個人が名義上の開設者となることが名義貸しに当たります。

  • ペナルティ(債務負担リスク)

名義貸しの場合、クリニックの業務に関するあらゆる契約の名義が医師個人になってしまうリスクがあります。実質的なオーナーが破綻した場合などには、開設者であり契約の名義人でもある医師個人に対して、クリニックの債務の請求がされるというリスクが顕在化します。実際に、美容クリニックの事例では、患者が集団で医師個人に対して訴訟を提起したことが報道され話題となりました。

参考:PR TIMES「ウルフクリニックの被害者救済へ、集団訴訟を提起しました」

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契約形態と契約書チェックリスト

開業よりローリスク?「雇われ院長」という第三のキャリアパスとは

「雇われ院長」の契約形態は「雇用契約」(労働者として保護される)とは限らず、業務の実態に基づいて判断されます。

雇用・委任・請負の違い(人事権・裁量・責任)

契約形態特徴労働者保護裁量・責任
雇用契約法人に雇用され労働者となる。労働法の適用を受け、労働時間制限、有給休暇、厳格な解雇規制で保護される。指揮命令下での業務。ただし「管理監督者」扱いになるリスクがある。
委任契約/業務委託契約法人が医師を「労働者」として扱わない意思を有している可能性が高い。有給休暇や時間外手当の付与がない。法人の都合で辞めさせられるリスクがある。業務の自由度が高いとされる一方、責任範囲が広がる可能性がある。
雇用+委任契約院長業務は雇用契約、理事業務は委任契約。雇用契約の部分については労働法で保護される。理事としての業務(経営に関する事項)は委任契約に基づく。

よくある条項(競業避止・損害賠償・解雇/減給)

  • 競業避止義務

退職後一定期間、元の職場と競合する業務を行うことを制限する条項です。将来開業を考えている場合は「近隣2キロ以内での転職や開業を禁止する」といった具体的な内容がないか、特に注意が必要です。

  • 解雇/減給・損害賠償

委任契約や業務委託契約の場合、厳格な解雇規制の制約に服さないため、法人の都合で辞めさせられるリスクが高まります。雇用契約の場合でも「管理監督者」扱いになると、残業代などの手当に関する保護を受けられないリスクがあります。

雇われ院長契約書チェックリスト

トラブルを防止するために、以下の点を事前に確認しましょう。

  1. 契約形態の明示:雇用契約か、委任契約か、契約形態が明確になっているか(曖昧な場合は委任契約扱いの可能性がある)。
  2. 裁量権の範囲:人事権、設備購入権など、院長としての権限がどこまであるか。
  3. 労働条件:勤務時間、休日、残業代の計算方法(管理監督者扱いとなるか否か)。
  4. 行政上の責任範囲:管理医師としての責任と、開設者(法人)が負う最終責任の区分。
  5. 競業避止義務:退職後の転職や開業に関する制限の有無、期間、地域。
  6. 開設者の確認:クリニックの開設者が医師個人ではないか(名義貸しリスクがないか)

退職・兼務・トラブル対応

雇われ院長は管理者という「重み」のある職種です。退職や契約に関しては慎重な対応が求められます。

有期満了前の退職/損害賠償

  • 円満退職の計画

管理者である以上、退職時には患者さんや法人に配慮し、きっちりと後任への引き継ぎの段取りを決めて退職時期を申請すれば、トラブルは回避できるでしょう。

  • 損害賠償

有期雇用契約期間中の自己都合退職や、契約で定められた競業避止義務に違反した場合など、契約内容によっては損害賠償のリスクが発生する可能性があります。雇用契約以外の形態(委任・業務委託)の場合は、労働法の保護が及ばないため、契約終了のリスクがより高まります。

別法人院長の兼務可否

医療法上の管理者は、その職務専念義務との関係から、他の医療機関の管理者(院長)との兼務は原則として認められていません。もし、複数の医療機関の管理を兼務したい場合は、管理者としての責任を十分に果たせるかという観点から、開設者や行政との間で慎重な検討が必要となります。

開業医との比較とキャリア設計

開業よりローリスク?「雇われ院長」という第三のキャリアパスとは

雇われ院長は、開業リスクを回避しつつ、次のキャリアへ進むための準備期間としても非常に有効です。

雇われ院長と開業医の違い【比較表】

項目雇われ院長(管理医師)開業医(開設者)典拠
初期費用不要多額の資金が必要
収入勤務医より高く安定している傾向。高収入の可能性があるが、経営状況に左右され不安定
責任行政上の管理責任は負うが、最終責任は開設者が負う。経営、人事、会計、トラブル対応など、すべての最終責任を負う。
裁量権経営者の方針に従う必要があり、人事権等に制約がある場合がある。経営方針、診療方針など、全てを自由に決定できる。
定年存在するない

雇われ→開業のステップ

雇われ院長は、開業を目指す上で「修行」の機会を提供します。

  1. 経営ノウハウの習得:金銭的リスクを負わずに、診療報酬の収益化やコメディカルの指導方法など、経営ノウハウを学ぶ。
  2. 実践と視野の拡大:中間管理職的な業務や行政上の管理責任を担うことで、診療以外の視野を広げる経験を得られます。
  3. 期間を決めたチャレンジ:開業意向のある医師を評価し、期間限定という希望を踏まえて採用を決めるところも多いため、キャリアプランに合わせて計画的に働くことができます。

ただし、雇われ院長経験は有益ですが、経営のすべてを体験できるわけではないため、開業時には資金繰りや物件選び、集患対策といった経営基盤を自身で固める必要があります。

開業リスクを抑えたキャリア選択のすすめ

開業医として成功を目指す上で、経営知識の不足や資金管理不足は大きな失敗原因となります。

雇われ院長というキャリアパスは、これらの開業リスクを回避しつつ、安定した給与を得ながら、経営ノウハウやマネジメント能力を磨くことができる「ローリスクな選択肢」です。

理想の医療を追求したいという情熱は大切ですが、自由と責任のバランスを考慮し、雇われ院長として経営の基礎を固めてから開業へ移行するなど、リスクを抑えた段階的なキャリア設計を検討することが、後悔のない医師人生を送るための鍵となります。

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