【診療科別】医師の開業費用は総額いくら?内訳と自己資金ゼロからの資金調達方法を解説

  • 開業したいけれど、実際にどれくらいの費用がかかるのだろう
  • 自己資金が少なくても開業は可能なのか

勤務医として経験を積み、いざ独立開業を考えたとき、多くの医師が最初に直面するのが資金面の不安です。

結論から申し上げると、医師の開業費用は診療科や開業形態によって大きく異なり、一般的に5,000万円〜1億円程度が目安となります。

  • 内科や小児科など無床診療所:5,000万〜7,000万円程度
  • 整形外科や眼科など高額な医療機器が必要な診療科:7,000万〜1億円以上

本記事では、開業を検討している医師の皆様に向けて、物件取得費・医療機器費・内装工事費・運転資金など、費用の詳細な内訳を解説します。さらに、診療科別の開業費用シミュレーションや、自己資金が少ない場合でも開業を実現できる資金調達の方法まで、実践的な情報を網羅的にお届けします。

開業という人生の大きな決断を、確かな資金計画に基づいて進めていくための参考にしていただければ幸いです。

医師の開業費用の総額は?診療科別モデルケース3選

医者の開業にいくらかかるのかは、診療科目や立地条件、開業スタイルによって大きく変動します。クリニック開業費用の具体的なイメージを持っていただくため、実際の開業事例に基づいた3つのモデルケースをご紹介します。それぞれの開業費用内訳を詳しく見ていきましょう。

【内科】都心テナント開業の場合:7,500万円

都心部の駅前テナントビルで内科クリニックを開業する場合、総額7,500万円程度が内科開業費用の標準です。内科は比較的高額な医療機器が少ないため、他の診療科と比較すると開業医の初期費用を抑えられる傾向にあります。

具体的な開業費用内訳として

  • 物件取得費:約1,200万円(保証金や礼金)
  • 賃料:月額80万〜100万円程度(都心部の好立地)

保証金:家賃の10〜12ヶ月分

  • 内装工事費:2,000万円を投資し、待合室や診察室、処置室などを医療法の基準に適合させる設計が必要

医療機器費には2,500万円を配分します

  • 電子カルテシステム:500万円
  • 超音波診断装置:300万円
  • 心電計や血液検査機器などの検査機器:800万円
  • その他の診療用機器や什器:900万円程度。
  • Webサイト制作や看板設置などの広告宣伝費:300万円
  • スタッフ採用費や開業前の準備人件費:500万円

さらにクリニック開業の運転資金として、最低3ヶ月分の固定費1,000万円を確保しておくことが望ましいでしょう。診療報酬の入金は診療から2ヶ月後になるため、開業直後の資金繰りを安定させるために必要になります。都心部でのテナント開業は初期の患者獲得がしやすい反面、賃料が高額になるため、毎月のランニングコストも考慮した医師開業資金の計画が重要です。

【整形外科】郊外・戸建て開業の場合:1億2,000万円

整形外科は医療機器の購入費用が高額になるため、整形外科開業費用は医師の開業費用の中でも最も高額な診療科のひとつです。郊外の土地を購入または賃借して戸建てクリニックを建設する場合、総額1億2,000万円程度を見込む必要があります。

土地取得費や建物の建設費に約5,000万円が必要です。郊外であれば土地の坪単価は都心部より抑えられますが、150〜200平米程度の診療スペースと駐車場を確保するには相応の投資が求められます。建物は鉄骨造や木造で建築し、バリアフリー設計や診療動線を考慮した設計が必要です。

  • 医療機器費:4,000万円が大きな割合を占めます。
  • X線撮影装置:1,500万円
  • 超音波診断装置:500万円
  • リハビリテーション機器一式:1,000万円
  • 電子カルテシステムや診察用機器:1,000万円程度

整形外科では画像診断機器が診療の要となるため、この部分への投資は削減できません。

  • 内装設計費:1,500万円
  • 広告宣伝費:400万円
  • 人件費:600万円

整形外科では理学療法士や作業療法士などの専門スタッフも必要となるため、人員配置も含めた総合的な資金計画が求められます。運転資金には500万円程度を確保しておくことで、開業初期の資金繰りを安定させることができます。

戸建て開業は自由度が高く、駐車場も確保しやすいため患者の利便性が高まります。特に整形外科は高齢患者が多く、車での来院を希望される方も多いため、十分な駐車スペースの確保は集患に有利です。ただし初期投資が大きいため、綿密な事業計画と十分な開業資金の調達が必要になります。

【皮膚科】居抜き物件活用の場合:3,500万円

居抜き物件とは、以前に営業していたクリニックや店舗の内装や設備をそのまま引き継げる物件のことです。皮膚科クリニックを居抜き物件で開業する場合、皮膚科開業費用を大幅に抑えて3,500万円程度で開業することが可能です。開業費用いくらという疑問に対して、最も低コストで答えられる選択肢となります。

既存の内装や一部の医療機器を活用できるため、内装工事費は部分改修のみの500万円程度に抑えられます。診察室のレイアウト変更や受付カウンターの改装、看板の付け替えなど、最小限の工事で開業準備が可能です。物件取得費には保証金や礼金で800万円程度を見込みます。

医療機器費には1,500万円を配分します。

  • ダーモスコープ:50万円
  • レーザー治療器:800万円
  • 電子カルテシステム:300万円
  • その他の診療用機器:350万円程度

皮膚科は内科や整形外科に比べると医療機器費を抑えられる診療科です。

  • 広告宣伝費:200万円
  • 人件費:300万円
  • 運転資金:200万円程度

居抜き物件は開業までの期間を短縮することができます。準備期間が短縮されることで、家賃負担の発生時期も遅らせることができ、資金繰りの面でも有効です。

ただし居抜き物件を選ぶ際には注意点もあります。前のクリニックのイメージが残っている点や設備の老朽化には注意が必要で、物件選定時には専門家による設備診断を受けることをおすすめします。評判の良かったクリニックの居抜きであれば患者の引継ぎも期待できますが、逆に評判が悪かった場合は風評被害のリスクもあります。

失敗しないために知るべき、開業費用の7大内訳

開業費用の総額だけでなく、どの項目にどれだけの費用がかかるのかを理解することが、資金計画の成功につながります。ここでは医師の開業に必要な7つの主要費用項目について、開業費用内訳を詳しく見ていきましょう。それぞれの項目を正確に把握することで、資金不足によるトラブルを未然に防ぐことができます。

①物件取得費(保証金・礼金など)

クリニックを開業する際の物件取得費は、立地や物件タイプによって大きく変動します。テナント物件の場合、保証金は家賃の6〜12ヶ月分が相場で、都心部の好立地では1,000万円を超えることも珍しくありません。この保証金は退去時に原状回復費用を差し引いて返還されますが、長期的に資金が固定化される点に注意が必要です。

礼金は家賃の1〜2ヶ月分、仲介手数料は家賃の1ヶ月分が一般的です。都心部で家賃が月額100万円の物件であれば

  • 保証金:1,000万〜1,200万円
  • 礼金:100万〜200万円
  • 仲介手数料:100万円

合計1,200万〜1,500万円程度が初期費用として必要になります。

戸建て開業の場合は土地の購入費用または地代、建物の建築費用が必要になり、数千万円規模の投資です。土地を購入する場合は固定資産税の負担も発生しますが、長期的には賃貸より経済的になる可能性があります。土地の坪単価は地域によって大きく異なり、都心部では坪200万〜500万円、郊外では坪50万〜150万円程度が相場です。

物件選びは開業の成否を左右する重要な要素です。患者のアクセスしやすさ、競合クリニックの有無、診療圏人口、駐車場の確保などを総合的に判断し、適切な物件を選定することが必要です。物件探しには医療専門の不動産会社を活用することで、診療に適した物件を効率的に見つけることができます。

②内装・設計費

クリニックの内装工事費は診療科目や規模、こだわりの度合いによって大きく異なりますが、一般的には1,500万〜3,000万円程度が相場です。待合室や診察室、処置室、トイレなど、医療法で定められた基準を満たす必要があります。診療所開設許可を取得するには、構造設備基準に適合していることが必須条件となります。

設計段階では医療機器の配置や導線設計、感染対策を考慮した空間づくりが重要です。患者が快適に過ごせる待合空間の設計や、スタッフが効率よく動ける動線の確保は、開業後の運営効率に直結します。清潔区域と不潔区域の明確な区分、プライバシーに配慮した診察室の配置なども、患者満足度を高める重要な要素です。

内装工事では医療用の給排水設備や電気容量の増強、防音対策なども必要になるため、一般的な店舗改装よりも費用がかさむ傾向です。特に医療機器は消費電力が大きいため、電気設備の増強工事が必須となるケースが多く、この費用も見込んでおく必要があります。

設計費は工事費の10〜15%程度が相場です。2,000万円の内装工事であれば、設計費として200万〜300万円を別途用意する必要があります。経験豊富な医療施設専門の設計士に依頼することで、法規制への適合や効率的な動線設計が実現できます。

③医療機器・什器費

医療機器費は診療科によって最も差が出る項目です。内科や小児科では電子カルテシステムや超音波診断装置、心電計など比較的抑えられますが、整形外科や眼科、皮膚科などでは高額な専門機器が必要になります。この医療機器費の見積もりを誤ると、開業資金が大幅に不足する事態に陥る可能性があります。

電子カルテシステムは300万〜800万円が相場です。クラウド型とオンプレミス型があり、クラウド型は初期費用が安い代わりに月額利用料が発生します。オンプレミス型は初期費用が高額ですが、ランニングコストを抑えられます。レセプトコンピュータとの連携や予約システムとの統合も考慮して選定する必要があります。

画像診断機器は特に高額です。

  • X線撮影装置:500万〜1,000万円
  • CT:3,000万〜5,000万円、
  • MRI:5,000万〜1億円

診療科によっては開業費用の大部分を占めます。

超音波診断装置は300万〜800万円程度で、内科や整形外科、産婦人科などで必須の機器となります。

診察用のデスクや椅子、待合室のソファ、受付カウンターなどの什器類にも300万〜500万円程度の予算を見込んでおく必要があります。患者の快適性を考慮した質の良い什器を選ぶことは、クリニックの印象を大きく左右します。特に待合室の家具は患者が長時間過ごす場所であるため、座り心地や耐久性を重視した選定が重要です。

④広告宣伝費(Webサイト・看板など)

開業時の広告宣伝費は患者獲得の重要な投資です。Webサイトの制作費用は50万〜200万円程度で、予約システムの導入やスマートフォン対応、SEO対策を含めると費用は増加します。現代では患者の多くがインターネットでクリニックを検索するため、Webサイトは集患の要となります。

Webサイトには診療時間や診療内容、医師の経歴、アクセス方法などの基本情報に加えて、医療法で認められた範囲内での診療実績や設備の情報を掲載します。オンライン予約システムを導入すれば、患者の利便性が向上し、電話対応の負担も軽減できます。月額3万〜5万円程度のランニングコストが発生しますが、効率化のメリットは大きいです。

屋外看板やサイン工事には100万〜300万円が必要です。看板は通行人の目に留まりやすいデザインと配置が重要で、専門のデザイナーに依頼することで効果的な集患ツールとなります。袖看板、自立看板、壁面看板など、物件の条件に応じた看板計画を立てる必要があります。

開業告知のチラシやポスティング費用に50万〜100万円程度を見込みます。診療圏内の住宅にチラシを配布することで、地域住民に開業を認知してもらうことができます。近年ではGoogleマイビジネスへの登録や、医療情報サイトへの掲載も重要な集患の手段となっています。

⑤採用・人件費(当面の人件費)

開業時には看護師や医療事務スタッフの採用が必須です。求人広告費や人材紹介会社への手数料として100万〜300万円程度を見込む必要があります。優秀な人材を確保するには、適切な求人媒体の選定と魅力的な求人内容の作成が重要です。

人材紹介会社を利用する場合、成功報酬として年収の20〜30%を支払うのが一般的です。看護師を年収400万円で採用する場合、紹介手数料は80万〜120万円となります。求人広告媒体を利用する場合は、掲載期間や媒体によって10万〜50万円程度の費用が発生します。

開業前の準備期間中もスタッフの研修や事務作業のために人件費が発生します。開業2ヶ月前からスタッフを雇用する場合、給与として月額100万〜200万円程度、社会保険料なども含めると相応の資金が必要です。開業前の研修期間は収入がない状態でスタッフに給与を支払うため、この期間の人件費を運転資金として確保しておくことも重要になります。

優秀なスタッフの確保はクリニック運営の質を左右します。給与水準は地域の相場を参考にしつつ、長期的に働いてもらえる環境づくりを意識した採用計画が重要です。スタッフの定着率が高ければ、患者サービスの質も安定し、結果的に経営の安定につながります。

⑥医薬品費

開業時には初期在庫として、一定量の医薬品の購入が必要です。診療科や処方パターンによって異なりますが、一般的には200万〜500万円程度の医薬品費を見込みます。初期段階で必要な医薬品を十分に確保しておくことで、患者への対応力を高めることが可能です。

内科や小児科では風邪薬や抗生物質、降圧剤、糖尿病薬などの常用薬が中心となります。整形外科では鎮痛剤や湿布薬、注射薬、点滴薬などが必要です。皮膚科では外用薬や抗アレルギー薬が多くを占めます。診療科に応じた医薬品リストを作成し、適切な在庫量を確保することが重要になります。

医薬品卸会社との取引条件や支払いサイトも資金繰りに影響するため、事前に確認しておくことが大切です。通常、医薬品の支払いは納品から1〜2ヶ月後となるため、開業直後の資金繰りを考慮した在庫管理が求められます。複数の卸会社と取引契約を結ぶことで、欠品リスクを減らし、価格競争による仕入れコスト削減も期待できます。

開業後は診療実績に応じて在庫を調整していきますが、初期段階では多めに確保しておくことで、処方の選択肢を広げられます。ただし過剰在庫は期限切れのリスクや資金の固定化につながるため、適切な在庫管理システムの導入も検討すべきです。

運転資金(最低3ヶ月分のキャッシュ)

開業直後は患者数が少なく、収入が安定しないため、運転資金の確保が極めて重要です。最低でも3ヶ月分、できれば6ヶ月分の固定費をカバーできるクリニック開業運転資金を用意しておく必要があります。運転資金が不足すると、資金ショートにより開業後すぐに経営が行き詰まる危険性があります。

運転資金には家賃や人件費、医薬品の仕入れ代金、光熱費、リース料などが含まれます。月間の固定費が300万円のクリニックであれば、900万〜1,800万円の運転資金が必要となります。この金額は決して少なくありませんが、開業初期の経営を安定させるために必要な投資です。

診療報酬の入金は診療から2ヶ月後になるため、開業後しばらくは収入がない状態が続きます。例えば4月に開業した場合、4月分の診療報酬が入金されるのは6月末となります。この2ヶ月間のタイムラグを乗り切るための十分な運転資金がなければ、資金ショートのリスクが高まります。

特に開業1年目は想定通りに患者が集まらない可能性もあるため、余裕を持った運転資金の確保が経営の安定につながります。事業計画では楽観的なシナリオだけでなく、患者数が想定の50%にとどまった場合などの悲観的なシナリオも想定し、それでも耐えられる運転資金を確保しておくことが賢明です。

【要注意】開業後に毎月かかる5大ランニングコスト

開業費用だけでなく、毎月継続的に発生するランニングコストも正確に把握しておく必要があります。これらの固定費を賄えるだけの収入を安定的に確保することが、クリニック経営の基本です。月々の支出を抑えることも必要ですが、過度な節約は医療の質やスタッフのモチベーションに悪影響を及ぼす可能性があるため、バランスが重要になります。

①人件費(給与・社会保険料)

人件費は毎月のランニングコストの中で最も大きな割合を占めます。看護師1名で月給30万〜40万円、医療事務スタッフは月給20万〜30万円が相場です。スタッフ3名を雇用する場合、給与だけで月額80万〜120万円が必要です。地域によって給与相場は異なりますが、優秀な人材を確保するには競争力のある給与水準を提示する必要があります。

加えて社会保険料として健康保険、厚生年金、雇用保険などが給与の約15%発生します。月給100万円のスタッフ人件費に対して、社会保険料の事業主負担は約15万円となり、実際の人件費負担は115万円程度になります。賞与や退職金の積立、福利厚生費なども含めると、人件費は予想以上に膨らみます。

年間ベースで考えると、月給の15〜16ヶ月分程度を人件費として見込む必要があります。夏季賞与と冬季賞与をそれぞれ月給の2ヶ月分支給する場合、年間で月給の16ヶ月分の人件費が発生する計算です。この金額を12で割ると、月平均の人件費が算出できます。

スタッフの労働環境を整えることは離職率を下げ、クリニックの質を維持するために大切です。適切な人件費の設定と、生産性の高い運営体制の構築が求められます。スタッフが長く働ける環境を作ることで、患者との信頼関係も築きやすくなり、結果的にクリニックの評判向上につながります。

②賃料(テナント料・地代家賃)

テナント物件で開業する場合、毎月の賃料が固定費として発生します。都心部の好立地では月額100万〜200万円、郊外でも50万〜100万円程度が相場です。賃料は立地条件に大きく左右されるため、開業場所の選定は慎重に行う必要があります。

賃料は売上に対して10〜15%以内に抑えることが経営安定の目安とされています。月商1,000万円のクリニックであれば、賃料は100万〜150万円以内が適正範囲となります。開業前の事業計画では、想定される月間売上と賃料のバランスを慎重に検討しましょう。

賃料負担が大きすぎると、他の経費や院長の報酬に影響が出るため、無理のない物件選定が大切です。立地の良さは集患に直結しますが、賃料負担が重すぎて経営を圧迫しては本末転倒です。患者の利便性と経営の持続可能性のバランスを取ることが求められます。

戸建て開業の場合でも、土地を賃借していれば地代が発生します。自己所有の場合は賃料負担がない代わりに、固定資産税や建物の減価償却費が発生する点を考慮しましょう。長期的な視点で見ると、土地建物の所有は資産形成にもつながりますが、初期投資が大きいため資金計画は慎重に立てる必要があります。

③医薬品・医療消耗品費

医薬品費は診療内容によって大きく変動しますが、売上の5〜15%程度が目安です。処方箋発行が多いクリニックでは院内処方の場合に医薬品費が増加します。院外処方を選択すれば医薬品在庫を抱える必要がなくなりますが、患者の利便性とのバランスを考慮する必要があります。

院内処方を行う場合、医薬品の在庫管理が重要になります。使用頻度の高い医薬品は適切な在庫量を維持し、使用頻度の低い医薬品は必要に応じて発注する体制を整えることで、在庫の適正化と期限切れのリスク軽減が実現できます。

医療消耗品には注射器やガーゼ、手袋、マスク、消毒液、包帯、検査キットなどが含まれます。これらは診療に必要なものですが、無駄な在庫を抱えないよう適切な発注管理が必要です。在庫管理システムを導入することで、必要な量を適切なタイミングで発注でき、資金の固定化を防ぐことができます。

医薬品卸会社との取引条件や値引き交渉、ジェネリック医薬品の活用などにより、コスト削減の余地があります。複数の卸会社から見積もりを取り、有利な条件で取引することも経営改善の一つの方法です。ただし価格だけでなく、配送の迅速性や欠品時の対応力なども総合的に評価して取引先を選定する必要があります。

④医療機器のリース料・保守費

医療機器をリース契約で導入している場合、毎月のリース料が発生します。

  • 電子カルテシステム:月額5万〜15万円
  • X線装置:月額10万〜30万円
  • 超音波診断装置:月額5万〜10万円程度

複数の医療機器をリース契約している場合、月額のリース料合計は30万〜70万円程度になることもあります。

医療機器は定期的なメンテナンスや保守点検が必要で、年間保守契約を結ぶことが一般的です。保守費用は機器価格の5〜10%程度が目安となり、高額機器ほど保守費も増加します。電子カルテシステムの年間保守費は50万〜100万円、X線装置は100~〜200万円程度が相場です。

保守契約を結ぶことで、故障時の修理費用を抑えられるメリットがあります。保守契約には定期点検や消耗品の交換、ソフトウェアのアップデート、故障時の出張修理などが含まれることが多く、突発的な高額出費を避けることができます。保守契約なしで運用すると、故障時の修理費用が数十万円から数百万円に及ぶこともあります。

故障時の修理費用や部品交換費用も見込んでおく必要があります。突発的な支出に備えて、ある程度の予備費を確保しておくことが賢明です。医療機器の故障は診療に直接影響するため、迅速な対応ができる保守体制を整えておく必要があります。

リース契約と一括購入のどちらが有利かは、資金状況や税務戦略によって異なります。リース契約は初期投資を抑えられ、月々のリース料を経費計上できますが、総支払額は一括購入より高くなることが多いです。一括購入は初期投資が大きいものの、長期的なコスト削減につながる可能性があります。

⑤広告宣伝費・システム利用料

開業後も継続的な集患活動が必要です。Webサイトの更新費用や、医療情報サイトへの掲載料として月額5万〜10万円程度を見込みます。定期的な情報更新は検索エンジンの評価を高め、新規患者の獲得に必要です。診療時間の変更や休診日のお知らせ、季節ごとの健康情報の発信などを継続的に行うことで、患者とのコミュニケーションを維持できます。

電子カルテシステムやレセプトコンピュータのクラウドサービス利用料、予約システムの月額費用なども発生します。これらのシステム費用は月額3万〜10万円程度が相場です。クラウドサービスはデータのバックアップや複数端末からのアクセスが可能になるなど、利便性が高い反面、継続的なコストが発生します。

オンライン予約システムは患者の利便性を高め、電話対応の負担を軽減できる有効なツールです。月額3万〜5万円程度で導入でき、24時間いつでも予約受付が可能になります。予約のキャンセルや変更もオンラインで対応できるため、スタッフの業務効率化にもつながります。

地域の情報誌への広告掲載や、健康セミナーの開催など、地道な認知活動も集患に有効です。広告宣伝費は売上の3〜5%程度を目安に、計画的に投資することが推奨されます。患者との接点を増やす活動は、クリニックの認知度を高め、長期的な経営安定につながります。

自己資金はいくら必要?賢い開業資金の調達術4選

開業費用の全額を自己資金で賄える医師は多くありません。ここでは現実的な医師開業資金の調達方法を4つ紹介します。複数の調達手段を組み合わせることで、自己資金が少ない場合でも開業を実現することが可能です。

日本政策金融公庫からの融資

日本政策金融公庫は医師の開業支援に積極的で、低金利かつ長期返済が可能な融資制度を提供しています。医療業向けの新規開業資金は最大7,200万円まで借り入れが可能で、金利は1〜2%台と民間金融機関より条件が良いです。政府系金融機関ならではの低金利は、返済負担を大きく軽減します。

融資を受けるには事業計画書の提出が必須で、開業後の収支見込みや返済計画を具体的に示す必要があります。事業計画書には開業場所の診療圏調査、想定患者数、月間売上予測、経費内訳、損益分岐点などの詳細が必要です。自己資金開業費用の30%以上あることが望ましいとされていますが、それ以下でも融資実績はあります。

事業計画の説得力が高ければ、自己資金比率が低くても融資を受けられる可能性があります。開業場所の立地条件が良好であること、医師としての経歴や専門性が明確であること、現実的な収支計画が立てられていることなどが評価されます。

審査には1〜2ヶ月程度かかるため、開業時期から逆算して早めに申し込むことが重要です。担保や保証人の設定により、融資条件が有利になる場合もあります。日本政策金融公庫は医療分野の開業支援に豊富な実績があるため、相談しやすい窓口です。各地の支店で無料相談も実施しているため、開業を検討し始めた段階で一度相談してみることをおすすめします。

②民間金融機関のメディカルローン

都市銀行や地方銀行、信用金庫などでは医師専用のメディカルローンを取り扱っています。融資限度額は1億円以上の商品もあり、大規模な開業にも対応可能です。民間金融機関は審査スピードが速い場合もあり、急ぎの資金調達にも対応できます。

金利は金融機関によって異なりますが、2〜4%程度が相場です。日本政策金融公庫よりやや高めですが融資限度額が大きいため、高額な開業資金が必要な場合に利用しましょう。既存の取引実績や属性によって条件が変わるため、複数の金融機関に相談して比較検討することをおすすめします。

普段から給与振込や住宅ローンなどで取引のある銀行では、審査が有利になる可能性があります。既存顧客としての信用情報が蓄積されているため、新規の申し込みよりもスムーズに審査が進むこともあるでしょう。担当者との関係性も築きやすく、相談しやすい環境が整っています。

民間金融機関は日本政策金融公庫と併用することも可能で、両方から融資を受けることで必要資金を確保する医師も少なくありません。日本政策金融公庫で基礎的な資金を調達し、不足分を民間金融機関で補うという組み合わせは一般的な手法です。例えば開業費用8,000万円のうち、日本政策金融公庫から5,000万円、民間金融機関から3,000万円を調達するような形です。

③リース契約の戦略的活用

医療機器をリース契約で導入することで、初期投資を大幅に抑えることが可能です。リース料は経費として計上できるため、税務上のメリットもあります。一括購入では多額の資金が必要な医療機器も、リース契約なら月々の支払いで導入できます。

リース期間は5〜7年が一般的で、期間終了後は再リース、買取、返却のいずれかを選択できます。再リースの場合は格安の料金で継続使用でき、買取の場合は残存価格で所有権を取得できます。最新機器に定期的に入れ替えることで、常に最新の医療を提供することが可能です。

医療技術の進歩が速い診療科では、リース契約による定期的な機器更新が有効な戦略となります。例えば超音波診断装置やレーザー治療器などは技術革新が速く、5年後には新型機が登場していることも珍しくありません。リース契約なら常に最新機器で診療できるため、患者満足度の向上につながります。

ただしリース総額は一括購入より高くなることが多いため、資金繰りとのバランスを考慮して判断する必要があります。初期費用を抑えたい場合はリース、長期的なコスト削減を重視する場合は一括購入と、状況に応じた選択が必要です。リース契約のメリット初期投資を抑えられる点と、最新機器への更新が容易な点です。一方で総支払額が高くなる点と、契約期間中は解約が難しい点がデメリットとなります。

④国や自治体の補助金・助成金

開業時に活用できる補助金や助成金制度が存在します。厚生労働省のキャリアアップ助成金や、自治体独自の創業支援補助金などが該当します。これらの制度は返済不要な資金であるため、積極的に活用すべきです。

補助金や助成金は公募期間が限られていることが多く、申請タイミングを逃さないよう注意が必要です。年度ごとに予算が設定されており、予算に達すると受付が終了する場合もあります。開業を検討し始めた段階から情報収集を始め、申請スケジュールを計画しておくことが重要です。

この制度は申請要件が細かく定められており、事前の情報収集と準備が必要です。補助金は後払いが基本のため、一時的に自己資金で支払う必要がある点に注意が必要です。資金繰りを考慮しながら、補助金の入金時期も計画に組み込む必要があります。

開業支援の専門家や税理士、中小企業診断士などに相談することで、活用可能な制度を見逃さずに済みます。補助金制度は年度ごとに内容が変わることもあるため、最新情報を常にチェックすることが大切です。地域の商工会議所や中小企業支援センターでも補助金情報を提供しているため、積極的に情報収集することをおすすめします。

開業費用を劇的に抑える3つの秘訣

工夫次第で開業費用を大幅に削減することが可能です。この章では実践的なコスト削減の方法を3つ紹介します。この章で紹介する方法を組み合わせることで、開業費用を数百万円から数千万円単位で圧縮できる可能性があります。

①「居抜き物件」で初期投資を圧縮する

居抜き物件とは前のテナントが使用していた内装や設備をそのまま引き継げる物件です。クリニックの居抜き物件であれば、診察室や待合室の内装、水回りの設備などがそのまま活用でき、内装工事費を大幅に削減できます。新規開業で2,000万円かかる内装工事費が、居抜き物件なら500万〜800万円程度に抑えられることもあります。

居抜き物件を選ぶ際は、設備の状態や使い勝手、前のクリニックの評判などを十分に確認することが重要です。良好な評判があれば患者の引継ぎにもつながる可能性があります。前院長が高齢による引退であれば、患者からの信頼を引き継ぐことができ、開業当初から一定の患者数を確保できます。

ただし古い設備の場合は修繕費用がかかる可能性もあるため、専門家による物件診断を受けることをおすすめします。電気設備や給排水設備の老朽化、空調設備の耐用年数などを確認し、近い将来に大規模な修繕が必要になるリスクを把握しておくことが重要です。

居抜き物件のもう一つのメリットは、開業までの期間を短縮できる点です。新規開業では物件探しから内装工事完了まで6〜12ヶ月かかることもありますが、居抜き物件なら3〜6ヶ月程度で開業できることもあります。開業準備期間が短縮されることで、家賃負担の発生時期も遅らせることができ、資金繰りの面で効果的です。

②「中古・リース機器」を戦略的に活用する

医療機器は新品にこだわらず、中古品や整備済み品を活用することでコストを半分以下に抑えられる場合があります。特にX線装置や超音波診断装置などは中古市場が充実しており、品質の良いものが入手可能です。新品で1,500万円のX線装置が、中古なら600万〜800万円程度で購入できることもあります。

中古医療機器を選ぶ際は、メンテナンス履歴や使用年数、保証内容などの確認が重要です。信頼できる中古医療機器販売会社から購入し、動作保証や一定期間の保証がついているものを選ぶことで、安心して導入できます。

リース契約を活用すれば初期投資をゼロにできるうえ、最新機器への更新も容易です。経費計上のメリットも大きく、資金繰りの改善につながります。月々のリース料は発生しますが、まとまった初期費用を用意する必要がないため、他の項目に資金を回すことができます。

ただし診療の質に直結する重要な機器については、新品の導入を検討することも必要です。患者の安全性と経営効率のバランスを考えた機器選定が求められます。例えば電子カルテシステムは診療の要となるシステムであるため、最新の機能を備えた新品を導入することで、長期的な運用効率を高めることが可能です。

③「共同開業」でリスクとコストを分散する

複数の医師が共同で開業することで、費用とリスクを分散できます。専門分野が異なる医師同士で開業すれば、幅広い診療ニーズへの対応や集患も可能です。例えば内科医と整形外科医が共同開業すれば、高齢患者の総合的なニーズに応えられ、相乗効果が期待できます。

共同開業では物件費用や医療機器費、人件費などを分担できるため、一人当たりの負担が軽減されます。開業費用8,000万円の場合、2人で共同開業すれば一人当たり4,000万円の負担で済みます。経営面での相談相手がいることも、精神的な支えになります。

医療機器の共用も可能になり、高額な機器を効率的に活用できます。例えばX線装置を共用することで、それぞれが単独で購入するより大幅にコストの削減が可能です。待合室や受付スペースも共用できるため、物件の面積も効率的で双方の費用負担が減ります。

一方で意思決定の調整や収益配分の取り決めなど、事前にルールを明確にしておく必要があります。契約書を作成し、将来的なトラブルを防ぐ体制づくりが重要です。

  • 診療方針
  • 経営方針
  • 利益配分
  • 勤務時間
  • 経費負担

上記などのルールを明文化し、定期的に見直す仕組みを作ることが求められます。

とはいえ開業リスクが不安な先生方へ|第3の選択肢

開業には大きな資金と経営リスクが伴います。理想の医療を追求したいが、経営面での不安が大きいという医師には、別の選択肢も存在します。

資金調達や経営の不安なく、理想の医療を実現する方法

独立開業以外にも、理想とする医療を実践する道はあります。雇われ院長として既存のクリニックで診療に専念する選択肢です。

経営リスクを負わずに、自分の医療理念に合った環境で働くことができます。資金調達や開業準備の負担もなく、すぐに診療活動を開始できる点が大きなメリットです。数千万円から1億円の借入をする精神的プレッシャーもなく、安心して医療に集中できます。

雇われ院長は経営の責任を負わない一方で、診療方針についてはある程度の裁量が与えられることが一般的です。スタッフの採用や育成、集患活動なども本部がバックアップする体制が整っている場合が多く、医師は診療に専念できる環境が用意されています。

雇われ院長として、当院であなたの理想を追求しませんか?

当院では、理想の医療を実現したい医師を雇われ院長として募集中です。経営面は本部がサポートし、先生は診療に集中していただける環境を整えています。

給与は開業医に匹敵する水準を保証し、診療方針についても先生の裁量を尊重します。スタッフの採用や育成、集患活動なども本部がバックアップする体制です。医療機器や設備も最新のものを用意し、快適な診療環境を提供します。

開業と同等の自由度を持ちながら、リスクを最小限に抑えた働き方が実現できます。ワークライフバランスも重視し、勤務時間や休日についても柔軟に対応します。

まずは無料キャリア相談で、あなたのビジョンをお聞かせください

開業するか、雇われ院長として働くか、それぞれにメリットとデメリットがあります。まずは無料のキャリア相談で、あなたの理想とする医療のビジョンをお聞かせください。

経験豊富なキャリアアドバイザーが、先生の状況や希望に合わせた最適なキャリアプランをご提案します。相談は完全無料で、秘密厳守でお受けします。

開業資金や経営面での不安を感じている先生方にとって、新たな選択肢となる可能性があります。ぜひお気軽にお問い合わせください。

まとめ

医師の開業費用は診療科や立地、開業形態によって大きく異なりますが、一般的に5,000万〜1億円程度が必要です。内科や小児科などの無床診療所では比較的費用を抑えられます。一方で整形外科や眼科などでは高額な医療機器が必要となり、1億円以上の投資が求められるケースも少なくありません。

開業費用の主な内訳は

上記7項目について相場を把握し、自分の診療科と開業形態に応じた適切な予算配分を行うことが重要です。物件取得費は立地によって大きく変動し、医療機器費は診療科による差が最も大きい項目です。

上記のような開業形態によって費用は大きく異なります。

内科の都心テナント開業:7,500万円

整形外科の郊外戸建て開業:1億2,000万円

皮膚科の居抜き物件活用:3,500万円

上記のモデルケースを参考に、自分に合った開業スタイルを検討することが大切です。

開業後のランニングコストも忘れてはいけません。

  • 人件費
  • 賃料
  • 医薬品費
  • 医療機器のリース料や保守費
  • 広告宣伝費
  • システム利用料

毎月継続的に発生する、上記の固定費を正確に把握し、賄えるだけの収入を安定的に確保することが経営の基本です。

資金調達には

上記の選択肢があります。自己資金が少ない場合でも、組み合わせることで開業は可能です。日本政策金融公庫は低金利で長期返済が可能なため、開業資金の調達先として最優先で検討しましょう。

開業費用を抑える方法として

上記を参考に初期投資を削減することで、資金繰りを改善し経営を安定させることができます。ただし過度なコスト削減は医療の質に影響する可能性があるため、バランスが重要です。

開業には大きな魅力がある一方、資金面や経営面での不安を感じる医師も少なくありません。そのような場合は、雇われ院長として理想の医療を追求する選択肢も検討する価値があります。経営リスクを負わずに診療に専念できる環境で、開業医に匹敵する収入を得ることも可能です。

いずれの道を選ぶにしても、医師としてのキャリアを充実させ、患者に最良の医療を提供するという目標は変わりません。自分に合った働き方を見つけ、確かな資金計画のもとで次のステップを踏み出してください。開業を決断する場合は、綿密な事業計画と十分な準備期間を確保し、専門家のアドバイスも活用しながら進めることをおすすめします。

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