むくみに関する一般的な誤解

この記事を書いた人
坂口 海雲

大阪市立大学医学部を卒業後、大阪市立大学循環器内科に入局。ベルランド総合病院、大阪市立大学病院への勤務を経て、福島吉野スマイル内科・循環器内科を開院。Dr.AGAクリニックの総院長も就任中。

所属:日本内科学会日本循環器学会、医学博士(循環器内科)

むくみに関する一般的な誤解

むくみ(浮腫)は、多くの人が経験する一般的な症状ですが、その原因や対策については多くの誤解が存在します。むくみとは、体内の余分な水分が組織に溜まり、皮膚や手足が腫れる状態のことを指します。通常、健康な体では体液のバランスが保たれていますが、何らかの理由でこのバランスが崩れるとむくみが発生します。

多くの人がむくみを一時的な問題と捉えていますが、実際にはむくみが示す健康リスクを理解することが重要です。むくみの原因はさまざまであり、生活習慣の見直しや専門医の診断が必要な場合もあります。

今回はむくみに関する一般的な誤解を4つに分けて解説していきます。

誤解1【むくみは一時的な問題で深刻ではない】

むくみは、多くの人が一時的なものと捉えがちですが、実際には長期間続くむくみは健康リスクを示すことがあります。一時的なむくみは、長時間の立ち仕事や飛行機での移動など、特定の状況下で生じることが多いです。これらの一時的なむくみは、通常、休息を取ったり、足を高く上げたり一晩眠ることで改善されることが多いです。

しかし、慢性的なむくみは深刻な健康問題を示している可能性があります。例えば、心臓や腎臓の機能が低下している場合、体内の水分を適切に排出することが難しくなり、むくみが発生します。また、肝臓の疾患や静脈瘤なども慢性的なむくみの原因となります。

放置されたむくみは、皮膚の状態を悪化させたり、感染症のリスクを高めたりすることもあります。そのため、長期間むくみが続く場合は、専門医の診察を受けることが重要です。実際の事例として、長期間のむくみを放置していた患者が心不全を患っていたケースもあります。早期に適切な対策をとることで、健康リスクを軽減することができます。

誤解2【水分摂取を控えるとむくみが解消される】

「むくみが気になるから、水分を控えよう」と思ったことはありませんか?実は、この考え方は大きな誤解です。水分摂取を控えることでむくみが解消されると考えるのは一見合理的に思えるかもしれませんが、実際には逆効果となることが多いのです。

体が水分不足を感じると、水分を蓄えようとする機能が強く働きます。つまり、水を控えると体はより多くの水分を保持しようとし、結果的にむくみが生じやすくなるのです。したがって、適切な水分バランスを保つことが、むくみの予防と解消にとって非常に重要なのです。

高齢者に必要な1日の水分量はおよそ2.5Lです。食事からも水分を摂取できるため、飲み物としては約1L〜1.5L(コップ約7杯分)を目安にすると良いでしょう。成人の場合であれば、1.5L~2Lの水分摂取が推奨とされています。しかし、運動量や気温、湿度などの環境条件によって必要な水分量は異なるため、自分の体調に合わせて調整することが大切です。

さらに、一度に大量の水を飲むのではなく、こまめに少量ずつ水分補給することが効果的です。カフェインやアルコールには利尿作用があり、過剰に摂取すると体内の水分バランスが崩れることがあります。これらの飲料は適度に楽しむ程度に留め、水分補給には水やノンカフェインのお茶などを選ぶと良いでしょう。

また、塩分摂取にも注意が必要です。塩分を過剰に摂取すると、体内に水分が溜まりやすくなりむくみの原因となります。低塩分の食事を心がけることで、むくみの予防につながります。

誤解3【むくみは年齢のせいで避けられない】

「年齢を重ねるとむくみやすくなるのは仕方がない」と考えていませんか?確かに、加齢に伴う体の変化はむくみやすさに影響を与えますが、それがすべての原因ではありません。適切な対策をとることで、むくみを予防・軽減することは十分に可能です。

まず、なぜ加齢がむくみやすさに影響を与えるのかを理解しましょう。加齢によって筋肉量が減少し、血液やリンパの流れが悪くなることがあります。また、血管や静脈の弾力性が低下するため、体液の循環がスムーズにいかなくなります。これらの要因が組み合わさって、むくみやすい状態が生まれるのです。

しかし、「年齢だから仕方ない」と諦める必要はありません。これらの要因に対して適切な生活習慣やケアを行うことで、むくみを防ぐことができます。

例えば、定期的な運動やバランスの取れた食事、十分な水分補給などが効果的です。さらに、足を高く上げる休息や、適切なマッサージもむくみの予防に役立ちます。これらの詳細な対策については、「自宅でできるむくみ緩和法」や「正しい食生活でむくみを予防する」などのタイトルでさらに詳しく説明します。

年齢によるむくみを完全に防ぐことは難しいかもしれませんが、適切な対策を取ることでその影響を最小限に抑えることができます。日常生活に少しの工夫を加えて健康的な体を維持しましょう。

誤解4【むくみは病気とは無関係】

先ほど少し触れましたが実は、むくみはさまざまな病気のサインであることがあります。この誤解を解くことは、健康を維持する上で非常に重要なので是非覚えておいてください。

むくみは、以下のような深刻な健康問題の兆候であることが多いです。

1. 心不全

心不全は、心臓が血液を十分に送り出せない状態です。これにより、体内に余分な液体が溜まりやすくなり、特に足や足首にむくみが生じます。心不全によるむくみは、立ち仕事や長時間の座り仕事の後に悪化しやすいです。また、息切れや疲労感などの症状も伴うことが多いです。

2. 腎不全

腎臓は体内の余分な水分や老廃物を排出する役割を果たしていますが、腎不全になるとこの機能が低下し、むくみが発生します。腎不全によるむくみは、特に顔や手足に現れることが多く、朝起きたときに顔がむくんでいることが多いです。また、尿の量や色の変化も腎不全の兆候です。

3. 肝疾患

肝臓の機能が低下すると、体内のアルブミン(血液中のタンパク質)の量が減少し、むくみが生じやすくなります。特に腹部や足にむくみが見られます。肝疾患によるむくみは、腹水(腹部に液体が溜まる状態)を伴うことが多く、腹部の膨張感や食欲不振などの症状も見られます。

4. 静脈瘤と血栓症

静脈瘤は、静脈内の血流が正常に流れなくなる状態です。これにより、血液が逆流し、足にむくみが発生します。静脈瘤によるむくみは、長時間の立ち仕事の後に悪化しやすく、足の痛みや疲労感を伴うことがあります。静脈瘤の特徴的な症状として、皮膚の表面に浮き出た曲がりくねった静脈が見られます。

また、血栓症は、血液の塊が静脈の中で詰まってしまう状態です。これもむくみの原因となります。血栓症は特に深部静脈血栓症(DVT)が足に発生しやすく、腫れや痛みを伴うことが多いです。血栓症は命にかかわることもあるため、注意が必要です。

むくみがこれらの病気のサインであることを見逃さないことが重要です。これらの病気については「むくみと関連する病気について」で詳しく説明しています。むくみが長期間続いたり、他の症状(例えば息切れ、疲労感、腹部の膨張など)が現れた場合は、速やかに医師の診察を受けるべきです。早期発見と治療が、健康を維持するために不可欠です。

まとめ

むくみが病気とは無関係であるという誤解を解くことが、健康管理において重要です。むくみについて正しい知識を持つことで、自分自身の健康状態をより良く理解し、適切な対策を講じることができます。必要な場合は専門医の診察を受けることで健康を維持しましょう。