むくみと関連する病気について

この記事を書いた人
坂口 海雲

大阪市立大学医学部を卒業後、大阪市立大学循環器内科に入局。ベルランド総合病院、大阪市立大学病院への勤務を経て、福島吉野スマイル内科・循環器内科を開院。Dr.AGAクリニックの総院長も就任中。

所属:日本内科学会日本循環器学会、医学博士(循環器内科)

むくみと関連する病気について

むくみは、多くの人が経験する一般的な症状ですが、その背後には深刻な健康問題が隠れていることがあります。例えば、足がむくんでいるのは一時的な疲労や長時間の座り仕事が原因と思われることが多いですが、実際には心不全や腎不全、肝疾患などの重大な病気のサインであることもあります。

この記事では、むくみが関連する代表的な病気について詳しく説明していきます。

心不全

心不全は、心臓が十分な血液を全身に送り出せない状態です。心臓のポンプ機能が低下することで、血液が末梢(特に脚や足首)に滞留しやすくなります。この結果、静脈圧が上昇し、液体が血管外に漏れ出すことでむくみが発生します。また、心不全では体内の血液の流れが滞り腎臓の機能も低下するため、老廃物や余分な水分が体内に蓄積しさらにむくみを悪化させるのです。

症状

足や足首のむくみ:心不全によるむくみは、重力の影響を受けやすい足や足首に特に顕著に現れます。

息切れ:軽い運動や階段の上り下りでも息切れが生じることが多く、進行すると安静時にも息切れが現れます。

疲労感:全身に十分な酸素と栄養が行き渡らないため、慢性的な疲労感を感じやすくなります。

体重増加:体内に余分な液体が蓄積されるため、体重が増加することがあります。

その他の症状:心不全には、咳、胸部不快感、夜間頻尿などの症状も伴うことがあります。

腎不全およびネフローゼ症候群

腎不全は、腎臓が老廃物や余分な水分を排出できなくなる状態です。この機能低下により、体内に水分が蓄積しやすくなります。腎不全では、腎臓が正常に機能しないため、ナトリウムと水分が体内に溜まりむくみの発生に繋がります。

ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体が損傷し、尿中に大量のタンパク質が漏れ出る状態です。このタンパク質喪失により、血液中のアルブミンが減少し、血管内の水分が保持できなくなります。その結果、液体が組織に漏れ出しむくみが生じます。

症状

顔や手足のむくみ:腎不全やネフローゼ症候群では、特に朝起きたときに顔がむくみやすくなります。手足にもむくみが現れやすいです。

尿の量や色の変化:尿の量が減少したり、濃い色の尿が出ることがあります。また、泡立つ尿が出ることもあります。

全身の疲労感:老廃物が体内に蓄積することで、全身に疲労感が生じやすくなります。

体重増加:体内に余分な水分が蓄積されるため、体重が増加することがあります。

高血圧:腎臓がナトリウムを適切に排出できず、高血圧が発生することがあります。

肝疾患

肝疾患は、肝臓の機能が低下する状態を指します。肝臓はアルブミンという血液中のタンパク質を生成する役割を担っており、アルブミンは血管内に水分を保持する働きがあります。肝機能が低下すると、アルブミンの生成が減少し血管内の水分保持能力が低下します。その結果、水分が血管外に漏れやすくなりむくみが発生します。特に、肝硬変などの慢性肝疾患ではこのメカニズムが顕著です。

症状

腹部の膨張感:肝疾患によるむくみは、腹部に液体が溜まる「腹水」として現れることが多いです。このため、腹部の膨張感や圧迫感が感じられます。

足のむくみ:腹水が足の血液循環を妨げるため、足や足首にもむくみが現れることがあります。

黄疸:肝機能が低下すると、ビリルビンの代謝が妨げられ、皮膚や目の白い部分が黄色くなる黄疸が見られることがあります。

疲労感:肝機能低下による代謝障害のため、慢性的な疲労感を感じやすくなります。

食欲不振:腹部の膨張感や肝機能の低下により、食欲不振が見られることがあります。

静脈瘤と血栓症

静脈瘤は、静脈の弁が正常に機能しない状態です。このため、血液が逆流しやすくなり、脚の静脈に滞留することで静脈圧が上昇します。その結果、血管外に液体が漏れ出し、むくみが発生します。一方、血栓症は、血液の塊が静脈の中で詰まってしまう状態です。血流が妨げられるため、詰まった部分の下流にむくみが生じます。特に深部静脈血栓症(DVT)は、足に深刻なむくみを引き起こします。

症状

足のむくみ:静脈瘤や血栓症では、足が特にむくみやすいです。

皮膚の変色:血液の滞留により、皮膚が紫色や青色に変色することがあります。

足の痛みや圧痛:特に血栓症では、血栓が詰まっている部分に強い痛みや圧痛を感じることがあります。痛みは立ち上がったり歩いたりする時に悪化しやすいので注意が必要です。

浮き出た静脈:静脈瘤の特徴として、皮膚の表面に浮き出た曲がりくねった静脈が見られることがあります。

温感の変化:血栓症の場合、血栓がある部位が温かく感じられることがあります。

リンパ浮腫

リンパ浮腫は、リンパ系の障害によってリンパ液の流れが妨げられ、体内にリンパ液が溜まる状態です。リンパ系は、体内の余分な液体をリンパ節を通じてろ過し、血管に戻す役割を果たしています。手術や放射線治療、感染、外傷などでリンパ管やリンパ節が損傷すると、リンパ液が正常に循環できなくなり、むくみが発生します。特に腕や足に顕著なむくみが現れることが多いです。

症状

局所的なむくみ:リンパ浮腫は通常、腕や足など特定の部位にむくみが生じます。むくみは時間と共に進行し、初めは軽度でも、放置すると重度になることがあります。

皮膚の硬化:むくんだ部分の皮膚が硬くなり、弾力を失うことがあります。これは、長期間のむくみによって皮膚組織が変化するためです。

感染のリスク増加:リンパ系の障害により、感染に対する防御機能が低下します。むくんだ部分が細菌感染を起こすと、蜂窩織炎などの感染症を引き起こすことがあります。

重だるさや不快感:むくんだ部分が重く感じ、動かすときに不快感が生じることがあります。これはリンパ液が溜まっていることによる圧迫感や、組織の変化によるものです。

皮膚の色の変化:リンパ浮腫の部分は皮膚の色が変わり、赤みや暗色を帯びることがあります。

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が不足する状態です。甲状腺ホルモンは、体の代謝を調節する重要な役割を果たしていますが、これが不足すると細胞内外の液体バランスが崩れ、水分が組織に溜まりやすくなります。特に皮下組織に水分が溜まりむくみが発生します。

症状

顔や手足のむくみ:甲状腺機能低下症では、顔や手足が特にむくみやすくなります。朝起きたときに顔がむくむことが多いです。

体重増加:代謝の低下により、体重が増加することがあります。これはむくみが原因であることも多いです。

疲労感:甲状腺ホルモンの不足により、エネルギーレベルが低下し、慢性的な疲労感を感じることがあります。

寒がり:代謝が低下するため、寒さに敏感になりやすく、手足が冷たく感じられることがあります。

皮膚の乾燥:代謝の低下により、皮膚が乾燥しやすくなります。これにより、皮膚がかさつき、かゆみが生じることがあります。

便秘:消化器系の代謝も低下するため、便秘が起こりやすくなります。

まとめ

今回紹介したように様々な病気がむくみの原因となり得ます。これらの病気は、早期の診断と適切な治療が非常に重要です。

むくみが続いたり、他の異常な症状が現れた場合は、速やかに医師の診察を受けることを推奨します。早期発見と治療は、これらの病気による合併症を予防し、健康を維持するために不可欠です。

むくみを単なる一時的な問題として見逃さず適切に対応することで、深刻な健康問題を未然に防ぐことができます。健康管理の一環としてむくみの原因を理解し、適切な対応を心がけましょう。